『眠られぬ夜のために』
●今回の書評担当者●宮脇書店西淀川店 砂川昌広
このタイトルは夜型の僕のための本だなと購入して、眠る前に少しづつ、4年近くかけて読破した。こんなに時間をかけて読み終えた本は初めてだ。
スイスの哲学者で国際法の大家であったヒルティが1919年に書いたのが本書。日記ではないが365日分の日付がつけてあり、それぞれの文章が10行から長くても2ページ程度と短いものになっていて、就寝前の読書に最適だ。
書かれている内容は、キリストの教えをもとに、人はいかに生きるべきかを説いたものだ。本当の幸福とはキリストを信じることでしか生まれず、それ以外の幸福はありえないとヒルティは語る。僕は無神論者で信仰心の欠片もなく、特にキリスト教に帰依するつもりもないが、それでもこの本を読むことで得るものは多かった。
キリストを信じる生き方といっても、ヒルティの経験にもとづいた内容なので、ただの説教で終わらずに、実践的なところに読み応えがある。人が生きていく社会のなかで、あるべき道徳観や倫理観というものは時代を問わず、何を信仰するかに関わらず不変的なものが多くあることが分かる。「他の人びとが欲するままに任せておいてよいことが、世には限りなく多い。結局、それはどうでもよいことだからだ。」「われわれは、ある人がいずれ一握りのちりに帰るであろう日をあらかじめ正確に知っていたら、彼に対してはげしく怒るようなことはおそらくしないだろう。」「苦しみ悩む者は、自分で苦しんだことのない人たちに、決して信頼しない。」
眠れない夜に、この本を読む。ここには自分の価値観とは違った考え方があり、それは理屈としては理解できても、心の底から納得できるものではない。そのズレがあるからこそ、客観的に自分を見つめることができる。キリストを信じる自分を思い描いてみることによって、そうではない自分の姿が浮かび上がってくる。などと小難しいことを考えてながら読むと、すぐに眠くなってくるところが、僕がこの本を延々と読んでいた理由でもある。続編の第2部も買ったが、読み終えるのは何年先になるのだろうか。
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- 宮脇書店西淀川店 砂川昌広
- 1975年兵庫県尼崎市生まれ。バブル景気のなか、大学さえ入ってしまえばいい会社に就職できると親にそそのかされ入学するも、卒業する時にはバブルは弾けた後で、就職超氷河期の前に玉砕。どうせフリーターなら、好きな事をしようと書店で働き始めるが、アルバイトとは思えぬ過酷な労働と責任を負わされ、こんなのアルバイトではやってられぬと、契約社員の道へ進む。その後、今勤める書店へと転職して現在に至る。文庫・理工書担当。