『読書からはじまる』

●今回の書評担当者●宮脇書店西淀川店 砂川昌広

  • 読書からはじまる (NHKライブラリー)
  • 『読書からはじまる (NHKライブラリー)』
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朝起きる。鞄に読みかけの本を入れる。午前中の仕事をして、休憩時間に本を読む。仕事を終えて帰宅すると、鞄から読みかけの本を取り出して、居間へと持っていく。家族とご飯を食べ、テレビを見て、その合間に本を読む。風呂に入り、インターネットをして、布団の中で眠りにつく直前まで本を読む。朝起きて、鞄に読みかけの本を入れる。呼吸するかのように、意識せず読書の時間は過ぎてゆく。僕にとって読書は日常の風景に溶け込んでいた。

ふと立ち寄った書店でこの本を見つけた。手に取って適当に開いたページにこう書かれていた。「読書というのは書を読むこと、本を読むことです。読書に必要なのは、けれども本当は本ではありません。読書のために必要なのが何かと言えば、それは椅子です」。僕は迷わず買って帰り、その晩から読み始めた。

この本では、本の読み方ではなく、本と人の間に生みだされる大切なものについて書かれてあった。読まない本の価値や、本と過ごす時間の豊かさ、子どもの本のちから、本とは故郷であり友人でもあり、本とは自ら探し求めて偶然に出会う存在であるということ。単なるメディアの一形態ではなく、本というものが特別でかけがえのないものとして、いかに本と向き合っていくべきか。それらの言葉のひとつひとつが、自分の読書のあり方を見つめ直させる。子供の頃から本が好きで、本ばかり読んできた僕にとって、本は故郷であり友人だと断言できる。だけど、いつのまにか読書を日常に埋没させてしまい、ただ消費するだけになっているのではないだろうか。

「とりもどしたいのは、日常の中で本を読むというのはこういうことなのだという、今はともすれば失われがちな実感です。そのためにも、深呼吸として、本は読みたい。わたしはそう思っています。」この本を読んで、安物だけれど読書用に椅子を買った。僕はあいかわらず時間があればどこでも本を読むけれど、まとまった時間ができた時や、お気に入りの作家の新刊を読み始める時は、この椅子に座って深呼吸をする。さあ、楽しい読書の時間だ。

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宮脇書店西淀川店 砂川昌広
宮脇書店西淀川店 砂川昌広
1975年兵庫県尼崎市生まれ。バブル景気のなか、大学さえ入ってしまえばいい会社に就職できると親にそそのかされ入学するも、卒業する時にはバブルは弾けた後で、就職超氷河期の前に玉砕。どうせフリーターなら、好きな事をしようと書店で働き始めるが、アルバイトとは思えぬ過酷な労働と責任を負わされ、こんなのアルバイトではやってられぬと、契約社員の道へ進む。その後、今勤める書店へと転職して現在に至る。文庫・理工書担当。