『不戦勝』せきしろ
●今回の書評担当者●うさぎや自治医大店 高田直樹
早くも2回目の寄稿、「あれもいいな、これもステキ...」と、もやもやしていた。「これだぁ!」と思ったら、過去におすすめされててあえなく撃沈。そこで閃いた、「仕方あるまい、アレを出すか...!」そうして決めたこの1冊。
「不戦勝」...なんてお得な響き...「不戦勝」...妄想界の奇才、せきしろの処女小説。帯の文句に偽りなし。「未曾有の箱庭青春小説」...「未曾有」と「箱庭」が同居するなんて、これこそ「未曾有」なんじゃないか!? 肝心の中身がまた前代未聞。「ボールを集めて願いを叶えよう!」という壮大なもの。しかも「7つ」。どうだろう...この"今まで見たことも聞いたこともない"感じ。
「ボールを集める」きっかけも、いきなり届くメール。 そこから始まるちっちゃな大冒険。そこは"箱庭"。ネタバレになるとイヤなので、細かくは書けないけれど、とにかく「ボール」が集まっていく過程がいい。リアル、生々しい。
「探してるものは案外身近にあるんだよ」的な、"なんかいい事"を言いたいわけでもないだろう。 そんなメッセージは別に要らない。
極めて淡々とボール集めは進む。あっけないほどに。でもその道程で出会う出来事は、とっても風変りなようで、実は結構その辺に転がってそう(?)な事ばかり。登場人物は皆どこかズレてる。でもそのズレっぷりがすごく面白い。
せきしろの描く物語は、とにかく妄想がこれでもかっていうくらい炸裂している。 常々妄想に浸り、悦に入る癖のある人にはたまらないだろう。小説って言ってみたら、妄想じゃないだろうか。それが、時に人を感動させる"妄想"だったり、人を考えさせる"妄想"だったり...。深い思慮から編み出された"妄想"ももちろんステキだけど、時々はとにかく下らないただ闇雲に肥大させた"妄想"もおいしい。帯の亀和田さんの言葉にもあるけれど、『「無駄」がこれでもかとギュウギュウづめされた小説』も大歓迎。
こういう『無駄』が社会に無比の潤いをもたらす。読んでつくづく思う「なんのためにもならんな」と。でも、そんな「なんのためにもならん」事に時間を使える豊かさを、ふと噛みしめたくなる。仕事に追われ、日常に疲れた「根はこども」な人たちに贈られた、とってもアホで愛らしい小説がここにある。
...つぶやき...実は、この本「本屋大賞2011」の時に同時募集されていた「中2賞」にも、激賞して参加したんだよなぁ...でも、気持ちイイくらいにスルーだった...とってもスルーだった。見事だった。スルーっぷりが。スルーってスルーって...(泣)
「たまにはこういう本もいいよ」って、多くの人に訴えたい、奇作がこれ。頭をカラにして、くふふと笑えればそれでよし。2008年刊行のこの本を、絶版にせずにいてくれるマガジンハウスさんにただただ感謝。 文庫化して欲しいなぁ。
- 『ジェノサイド』高野和明 (2011年5月19日更新)
- うさぎや自治医大店 高田直樹
- 大学を出、職にあぶれそうになっていた所を今の会社に拾ってもらい早14・5年……。とにもかくにもどうにかこうにか今に至る。数年前からたなぞう中毒になり、追われるように本を読む。でも全然読めない……なぜだ! なぜ違う事する! 家に帰っても発注が止められない。発注中毒……。でも仕入れた本が売れると嬉しいよねぇ。