『時が新しかったころ』ロバート・F・ヤング
●今回の書評担当者●紀伊國屋書店渋谷店 竹村真志
最近、暮らしに何か足りないなぁ......と感じていたら、それは"ロマンティック時間SF"でした。
白亜紀の地層から何故か発見された「人骨」の謎を追って、7400万年の時を越えて派遣された調査員・カーペンターは、問題の座標近くで二人の子供と出逢う。人数も背格好も件の人骨とはそぐわないようだが、少年(二人は姉弟だった)は言う。
「僕たちは、誘拐されてこの地に連れてこられた火星の王族です」
なんと、7400万年前の火星には、現代の地球すらも凌駕する科学文明が存在するというのだ。
まさかと思うカーペンターだが(どう見ても姉弟はアメリカ人にしか見えない)、確かに少年は聞いたことのない言語を喋るし、かと思えばイヤリング型の翻訳機だいうモノを貸してくれるし、付けてみれば確かに翻訳されるし、おまけに追手のプテラノドン(型飛翔艇!?)が襲ってきて......!!
そんな、僕が忘れていた何かを思い出させ、取り戻させてくれた今月の一冊こそ、ロバート・F・ヤングの『時が新しかったころ』(東京創元社)。
某月9ドラマでも取り上げられた、時間SFの傑作『たんぽぽ娘』の著者でもあります。
そう、彼はロマンティック時間SFの名匠なのです!
サラリと流してしまいましたが、カーペンターはトリケラトプスに擬態させたタイムマシンに乗っってビューンと時を越えます。で、そこで出逢っちゃった火星の王女様(とその弟)を、何とかして母星に送り返す為、誘拐犯に立ち向かう──という筋立て。
とはいえ、二人を送り返す先は現在(=白亜紀)の火星なので、「どの辺りが時間SFなのさ?」と言われてしまうと、これ以上踏み込むのは興を削ぐネタバレになってしまいますので、「是非ご一読を!」と濁しますが、名匠ならではの爽快な読後感をお約束します。
勿論、人骨の謎も解き明かされます。SFで恋愛でミステリだなんて......道理で僕が夢中になるワケだ!
時間について考えるのはとても楽しいです。
「タイムマシンで過去の自分に会うと互いに消滅してしまう」などと言われますが、誰かが証明したワケではないので、あくまで一説に過ぎません。「未来から会いに来たよ」という自分に会ったコトはないですよね。このコトから、「何かしらの力が働いて、過去(もしくは未来)の自分には会えない」という説もありますし、並行宇宙という説もあります。
答えなんて(今の所)無いので、現状は自分がどの説を採るかです。
答えは今世紀中に出るかも知れませんし、いつまでも謎のままかも知れません。明日、急に時間旅行のノウハウが確立するかも知れない。
もう、そんなコトを考えるだけでワクワクしてしまいます。誰かとお酒でも飲みながら時間論をぶつけ合うなんて出来たらもう最高です。
とはいえ、僕は時間SFが大好きなので、いつか時間の謎が解き明かされて、これらの素敵な時間SFが読めなくなってしまうくらいなら、タイムマシンなんて永遠に夢のままでイイや──そんな風に思っています。
- 『貘の檻』道尾秀介 (2014年5月22日更新)
- 紀伊國屋書店渋谷店 竹村真志
- オーストラリア出身(生まれただけ)、5人兄妹(次男)、姉が年下(義理の)…と、自己紹介のネタにだけは事欠かない現在書店員8年目。欲しいモ ノは、中堅としての落ち着き。 エンタメは言うに及ばず、文学、ミステリ、恋愛、SF、外文、ラノベにBLまで、基本的にジャンルを問わず何でも読みます(でも時代小説はそんな に読まないかも…)。 紹介する本も「ジャンル不問。新刊・既刊も問いません」とのコトなので、少しでも、皆様の読書のお供になるような一冊を紹介出来ればと思いますの で、一年間、宜しくお願い致します!