『あまからカルテット』柚木麻子
●今回の書評担当者●紀伊國屋書店渋谷店 竹村真志
夢物語かも知れないけれど、「戦場で甘いものを配ったら、世界中の紛争は止められるんじゃないのか」とか思っています。
甘いものには、人を幸せにし、世界を変える力があるような気がする。まぁ、甘くなくても、美味しいものには。そうだったらイイな、って。言い過ぎでしょうか。
今回は、そんな「美味しいもの」と「女の友情」が謎を解き明かす、柚木麻子さんの『あまからカルテット』(文春文庫)をご紹介です。
咲子、薫子、満里子、由香子の四人は中学校以来の親友。容姿も性格も、現在の生活環境もてんでバラバラなのだが、30歳を目前に控えた今でも、月に一度のお茶会は欠かさない。
しかし、今回のお茶会に何故だか饗されたのは、紅茶との食べ合わせには向かないであろう......お稲荷さん。ところがどっこい、コレがべらぼうに美味しい!
なんでも、咲子が花火大会を見に行った際、名前も連絡先も聞かずに別れてしまった、ちょっぴり気になる男性がこさえた一品なのだという。
彼──"お稲荷さんの君"は一体、どこの誰なのだろう?
三人は、手掛かりとなるお稲荷さんを一人一つ持ち帰り、早速「捜査」を開始する。
出版社に勤める薫子は、B級グルメに詳しい先輩記者と共に、お稲荷さんの店を探し始める。
美容部員・満里子は、合コンで知り合った男から、「その彼はジャズに詳しいかも知れない」という新たなヒントを得、男とジャズを聴いて回りだす。
ただ一人専業主婦の由香子は、得意の料理でお稲荷さんの味を再現してみようと奮闘し、そのレシピをBlogに公開して情報を探るコトに......
はたして、"お稲荷さんの君"は見つけられるのか!?
いくつになっても、恋に仕事に悩みは尽きない女性たち。
「でも、所詮女の友情ってさぁ...」などと、斜に構えて読み始めたのですが、第一章で一気に全身全霊を持っていかれました。抜群に面白い!
第二章以降も、「甘食」「ハイボール」「食べるラー油」、そして極めつけに「おせち」。四人は自身の人脈とスキルを頼りに、そして様々な食べ物を通じて、親友のピンチを救います。
変わってしまった部分もあれば、変わらない部分もある。大人になって、少し距離があいた故に、新たに出来る付き合い方もある。
自慢じゃないけれど──いや、実はちょっぴり自慢かな、僕にもかれこれ20年になろうかという、小学生の頃からの親友がいます。流石に月イチとはいかないけれど、半年に一度は必ず顔を合わせるようにしています。
僕らもやはり、性格も嗜好も、仕事や得意なコトだって全然違う。
海外留学していたヤツもいれば、子供の頃には一番頼りなかったヤツが今では一番マジメに働いているような気もする。
そんな彼らと、謎解きをしながら問題を解決し合えたら──つい、そんなコトを夢想してしまいました。
ちょうど、この記事が掲載される頃、その「半年に一度」に当たる、地元の夏祭りの日がやってきます。この夏は、缶ビール片手に彼らにもこの本の話をしてみようか。
- 『時が新しかったころ』ロバート・F・ヤング (2014年6月26日更新)
- 『貘の檻』道尾秀介 (2014年5月22日更新)
- 紀伊國屋書店渋谷店 竹村真志
- オーストラリア出身(生まれただけ)、5人兄妹(次男)、姉が年下(義理の)…と、自己紹介のネタにだけは事欠かない現在書店員8年目。欲しいモ ノは、中堅としての落ち着き。 エンタメは言うに及ばず、文学、ミステリ、恋愛、SF、外文、ラノベにBLまで、基本的にジャンルを問わず何でも読みます(でも時代小説はそんな に読まないかも…)。 紹介する本も「ジャンル不問。新刊・既刊も問いません」とのコトなので、少しでも、皆様の読書のお供になるような一冊を紹介出来ればと思いますの で、一年間、宜しくお願い致します!