『夏の塩』榎田ユウリ
●今回の書評担当者●紀伊國屋書店渋谷店 竹村真志
BLです。
賢明な読者諸君には、これがベーコン&レタスでも、絵本の出版社でも、石油などの容積単位でもないコトくらいはご存知でしょう。
「主に男性同士の恋愛を扱う作品の総称...」とかなんとかいう説明には若干辟易しているので、ココでは省略させて頂きます。
以前勤めていた書店が、エロやBLなどに強いお店だったのもあって、これらのジャンルに偏見がありません(入社初日に朝イチで出くわした際は流石にたまげましたが...)。むしろ、担当として毎日売場とにらめっこしながら、注文書に数を入れ、新刊指定をし、お店に並べ、POPを書いていたワケですから、愛着があるくらいです。
榎田ユウリさんの『夏の塩』(角川文庫)は、まだ「BL」という呼称が一般には浸透していない黎明期、未だ「耽美」や「JUNE(ジュネ)」などとも呼ばれていた時代に書かれたシリーズの、第一作目の復刊です。
普通のサラリーマン・久留米の家に転がり込んできた大学時代の友人・魚住。
男女を問わず虜にする美貌の持ち主なのだが、頭のネジが幾らか足りないのか、掴み所がなく、どこか抜けている。勝手に惚れてしまう女性は多いが、どれも長続きはしない。
実は、魚住はとあるキッカケでEDと味覚障害を患っており、自分のマンションを飛び出してきたのだ。
そんな、どんな女も愛想を尽かす魚住なのだが、生来の鈍感さを持ち合わせた久留米だけは、何だかんだと言いながらも彼を受け容れていく。対する魚住も、久留米の傍にいる時だけは、何故だか症状が改善されるのだった。......EDの方も。
久留米の元カノにして、魚住の過去にも一枚噛んでいる女性・マリと、久留米のアパートの隣人で、インド人にしか見えないイギリス国籍のクォーター・サリーム。そして、魚住の所属する大学院研究室の面々──しっかりと群像劇を描きながら、はてさて、ひとつ屋根の下で互いに何だか"ヘン"な気持ちと衝動の芽生えてきてしまった久留米と魚住は...!?
正直、同性に恋してしまう感覚までは理解してあげられないのですが、そこは抜きにしても、恋する気持ちのモヤモヤは人並みに経験してきましたので、傍から微笑ましく覗き見させてもらっている感じは、フツーの恋愛と何ら変わるものではありません。
相手が同性であるが故の苦しみや、時におかしみは、異性愛の作品にはない大きな魅力でもあります。
BLは圧倒的にハッピーエンドが多い、というのも安心して作品に浸れる点です。
昨今、一般レーベルでもこうしてBL作品がお店に並ぶようになりました。
講談社文庫では、同じく人気BL作家の木原音瀬(このはら なりせ)さんの作品が相次いで文庫化されています(コチラは「狂おしい」という形容詞の似合う作品が多いですが)。
興味はあるけれど実は読んだコトが無いという方や、マンガや二次創作しか知らないという方、読書の幅を広げたい貴方も、食わず嫌いといわずに手を伸ばしてみては?
新たな性癖に目覚めてしまっても責任は負いかねますが......。
- 『あまからカルテット』柚木麻子 (2014年7月24日更新)
- 『時が新しかったころ』ロバート・F・ヤング (2014年6月26日更新)
- 『貘の檻』道尾秀介 (2014年5月22日更新)
- 紀伊國屋書店渋谷店 竹村真志
- オーストラリア出身(生まれただけ)、5人兄妹(次男)、姉が年下(義理の)…と、自己紹介のネタにだけは事欠かない現在書店員8年目。欲しいモ ノは、中堅としての落ち着き。 エンタメは言うに及ばず、文学、ミステリ、恋愛、SF、外文、ラノベにBLまで、基本的にジャンルを問わず何でも読みます(でも時代小説はそんな に読まないかも…)。 紹介する本も「ジャンル不問。新刊・既刊も問いません」とのコトなので、少しでも、皆様の読書のお供になるような一冊を紹介出来ればと思いますの で、一年間、宜しくお願い致します!