『さよなら、そして永遠に』ロザムンド・ラプトン
●今回の書評担当者●紀伊國屋書店渋谷店 竹村真志
自己紹介欄にもある通り、5人兄妹に両親と、7人核家族で育ちました。5人ともなると周囲にはそうそうおらず、小中学校でも結構有名な一家でしたし、今でも自慢の家族です。恥ずかしげもなく言ってしまいます。
そんなワケもあって、家族を描く物語に弱いです。もとい、大好きです。
今回御紹介する『さよなら、そして永遠に』(エンジンルーム)は、様々な家族の愛憎が織り成す、極上のミステリであり、家族小説でもあります。
グレースは、息子・アダムの通う私立小学校のスポーツデーで、突如発生した校舎の火災に巻き込まれてしまい、彼女と、補助教員として勤めていた娘のジェニーは母娘揃って意識不明の重体に陥り、病院に搬送される。
目を覚ましたグレースは、病院のベッドに横たわる自分の姿を認める。なんと、いわゆる幽体離脱で精神だけの状態になってしまったらしいのだ。同じ状況になっていたジェニーと合流したグレースは、病院に駆け込んできた夫・マイクと再会するのだが、二人の姿は誰にも見えないし、声も届かない。
そしてマイクの姉であり、警察官のセーラから告げられた衝撃の告白。
──なんと、校舎の火災は放火の可能性が高いのだという。
他には大したケガ人も出なかった白昼の放火。実は、ジェニーは半年ほど前まで嫌がらせに遭っていた......はたして、火事は学校を狙ったものだったのか、それともジェニーを襲う目的があったのか? 母と娘は、声の届かないもどかしさに苦しみながら、事件の真相を追うのだが──
何ともスピリチュアルな展開ですが、外傷らしい外傷もないのに目を覚まさない妻と、重度の火傷で見るも無惨な姿で横たわる十代の娘を同時に前にした夫の姿を、ただ傍で見ているコトしか出来ないという辛さとは如何ばかりのものでしょうか。
グレースは、実は苦手だった義姉や、仲の良い友人、いけ好かない同僚、仕事で多忙な夫......様々な人物の傍らで情報を集めながら、彼らが自分を、そして家族を、どんな風に想ってくれていたかを知っていきます。
そして、非合法捜査も厭わないセーラ達の必死の行動によって、事件は少しずつその姿を明かしてきますが、二転三転する事件の真相は、とても重く、苦しい結末が待ち受けています。
どんな家族にも問題はあり、そして、どんな家族にも、繋ぎとめておきたい絆がある。
この「絆」という語は元々、「家畜などを繋いでおく綱・縛(いまし)め」という意味だったのだそうです。
愛情や血縁で結ばれたこの縛めは、良くも悪くも、人を動かす大きな力に変わります。
その両面と向き合い、真っ直ぐに見せてくれる物語でした。
ミステリですので、きちんと登場人物の中に真犯人がいるのですが、それを推理しながら読むのは、とても、哀しいコトかも知れません。
最後に。作中、まだ幼いアダムがこう言います。
「ジェニーと自分が、パパとママを"血縁者"にした」と。
夫婦とは、愛情という非常に不安定な概念で結ばれた他人同士です。
それが、子供を通じるコトで夫婦も血を分け、"家族"という名の下に繋がれる......正に「子は鎹(かすがい)」ですね。
ハッと胸を打たれる、少年の一言でした。
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- 紀伊國屋書店渋谷店 竹村真志
- オーストラリア出身(生まれただけ)、5人兄妹(次男)、姉が年下(義理の)…と、自己紹介のネタにだけは事欠かない現在書店員8年目。欲しいモ ノは、中堅としての落ち着き。 エンタメは言うに及ばず、文学、ミステリ、恋愛、SF、外文、ラノベにBLまで、基本的にジャンルを問わず何でも読みます(でも時代小説はそんな に読まないかも…)。 紹介する本も「ジャンル不問。新刊・既刊も問いません」とのコトなので、少しでも、皆様の読書のお供になるような一冊を紹介出来ればと思いますの で、一年間、宜しくお願い致します!