『消失グラデーション』長沢樹

●今回の書評担当者●紀伊國屋書店渋谷店 竹村真志

  • 消失グラデーション (角川文庫)
  • 『消失グラデーション (角川文庫)』
    長沢 樹
    KADOKAWA/角川書店
    734円(税込)
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 職業病なのか、遅読が原因なのか、性格に問題があるのか、部屋中に本が積み上げられています。一ヶ月に読む本の量よりも、買う本の量の方が多いからこうなるのでしょう。えぇ、解ってはいるつもりです。頭では。

 読みたいから買ったクセに、その時には少し前に買った「読みたいから買った本」を読んでいるので、新たな一冊は積み上げられ、その本を手に取る頃には、また新しい「読みたい本」を買ってきているという負のスパイラルです。この先もこんな生き方しか出来ないのなら、死んでも成仏できない気がします。

 前置きが長くなりました。
「文庫化したら読むぞ!」「文庫化したぞ!やった!」と勢い込んで買ったのに、上記の理由で樹海に埋もれさせてしまっていた今月の一冊が『消失グラデーション』(角川文庫)です。

 不真面目な男子バスケ部員・椎名が目撃した、校舎屋上からの女子生徒の転落。急いで現場に駆けつけた椎名が目にしたのは、目の前に横たわる血まみれの少女! しかし、そこで椎名は何者かに後ろから襲われ、気絶させられてしまう......。

 目が覚めた椎名は、後から駆けつけた生徒達によって保護されたようなのだが、なんと、自身が目撃したハズの転落した少女は、血痕だけを残し、忽然とその姿を消していた......。

 折りしも、校内では不審者の侵入による盗難事件が相次いでおり、校内には監視カメラが増設されていたのだが、そこにも女子生徒の姿は映っておらず...!?

 正に"消失"した彼女の行方は?はたして、その生死は──

 文庫裏表紙に書かれているあらすじの「事件」はなかなか起こらず、主人公・椎名康は、のちに探偵役として活躍する樋口真由らと共に高校生活をそれなりに謳歌しています。各人がそれぞれに抱える痛みや問題を抱えながら。
 しかし、そこは歴代最大の賛辞を贈られた、第31回横溝正史ミステリ大賞の大賞受賞作。
 何気ない日常も当然、全て見事な伏線なのです......。

 生徒達の抱える痛みや秘密、言えない言葉に、分かち合えない不甲斐無さ、ままならない歯痒さ──その全てを「青春」と呼ぶのでしょう。

 終盤の解決篇、まさかの滑り出しには「何じゃそりゃ!!」と突っ込んでしまいました。オイオイ、ココまで来てトンデモミステリなのかよ......と思いきや、その後も次々に明かされる衝撃の真相の連発に、僕も「何じゃそりゃ!!」を連発。

 これまで読み進めてきた物語の風景が"消失"するクライマックスには唖然。茫然。
 仕舞いには「何じゃそりゃ...」とちょっぴり泣いておりました。
 そう、実は全篇を通じて、しっかりとしたテーマを持って描かれていたのです。やられた......。

 これだけの大技を仕掛けておいて、『樋口真由 "消失"シリーズ』と銘打って、続篇が出ているなんて!あぁ、早く読みたいなぁ。
 とはいえ、それを手に取るのはいつになるのやら......。

 しかし、我が家の積読には、まだまだこんなに面白い本が眠っているのだろうな。
 そして、未だ見ぬ面白い本というのは、世界中にもっともっと眠っているのだろうな。

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紀伊國屋書店渋谷店 竹村真志
紀伊國屋書店渋谷店 竹村真志
オーストラリア出身(生まれただけ)、5人兄妹(次男)、姉が年下(義理の)…と、自己紹介のネタにだけは事欠かない現在書店員8年目。欲しいモ ノは、中堅としての落ち着き。 エンタメは言うに及ばず、文学、ミステリ、恋愛、SF、外文、ラノベにBLまで、基本的にジャンルを問わず何でも読みます(でも時代小説はそんな に読まないかも…)。 紹介する本も「ジャンル不問。新刊・既刊も問いません」とのコトなので、少しでも、皆様の読書のお供になるような一冊を紹介出来ればと思いますの で、一年間、宜しくお願い致します!