『ダンジョン飯(1)』九井諒子

●今回の書評担当者●紀伊國屋書店渋谷店 竹村真志

  • ダンジョン飯 1巻 (ビームコミックス)
  • 『ダンジョン飯 1巻 (ビームコミックス)』
    九井 諒子
    KADOKAWA/エンターブレイン
    650円(税込)
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『不思議のダンジョン』シリーズというゲームを御存知だろうか?

 足を踏み入れる度に形を変えるダンジョンの中で、武器や防具を手に入れ、魔物を打ち倒し、罠を避け、パンやおにぎりで空腹を満たしながらダンジョンの深奥を目指すというゲーム。命を落とせばまた入口へと連れ戻され、後戻りもやり直しも効かない。まさに一挙手一投足が命懸け。全てが一期一会のゲームだった。いやー、小学生の頃夢中になったものです。
 僕はこのゲームを通じて、友人たちと共に、「食育」というか、食べ物のありがたさを深く学んだ気がする。とはいえ、ココは書評の場なので、ゲームについて語るのはこの辺りにしておきましょう。

 今回ご紹介するのは、その名も『ダンジョン飯』(KADOKAWA)。
 本格ファンタジーグルメ漫画である。ありそうでなかった衝撃の新ジャンルだ。

 冒険者ライオスは、仲間とダンジョン攻略の最中、空腹が原因でドラゴン討伐に失敗。辛くも迷宮からの脱出には成功するものの、パーティーメンバーだった妹が取り残されてしまう。直ぐにでも彼女の救出に乗り出したいのだが、仲間も資金も、胃袋も心許ない。

 そこで、ライオスが下した決断は「食糧の自給自足」であった。すなわち、魔物を倒して食べる! というのである。
 実は、無類の魔物好きであったライオスは、予てから「魔物を食べてみたい」という密かな欲望を抱いていたのだ!「食べちゃいたいほど好き」というヤツなのだろう。

 早速、浅層階に巣食う弱小モンスターを捕え、煮込んでみるのだが、早々に腹を下してしまう。
 そんな折、どこからともなく現れたドワーフの男・センシが、ライオス一行にモンスター料理こと"魔物食"のイロハを教えてくれ、絶品の水炊きを振る舞ってくれるのだった......!!

 スライム、マンドレイク、バジリスク......ファンタジーでお約束のモンスターを次から次へと倒しては喰らう! おまけに、「上手に焼けました~☆」どころの話ではない。タルト、オムレツ、かき揚げ......もう、完全に、ガッツリ、料理マンガなのである。
 ご丁寧に栄養価や材料の分量まで細かく記載されているのだ──って、作れねぇよ!!

「どうしたら強くなれますか?」の答えが「食生活の改善と生活リズムの見直し!」って、もう全然ファンタジーじゃない(笑)。強くなければ食べていけないし、食べなきゃ強くはなれない......このジレンマこそ、ファンタジー新時代の新たな醍醐味だったのか。

 とはいえ、独自のモンスターの生態解釈や、迷宮探索においてはしっかり大冒険をしていて、ドキドキワクワク、いつの間にやらお腹も空いてくる......なんという新手の飯テロ。"動く鎧"の食べ方は是非ともその目で確かめて頂きたい。

 始めは(というか基本的にいつもだけれど)難色を示し、激しいツッコミを交えながらも、いざ一口食べれば「美味しい...」と顔を綻ばせる仲間たちの姿が、本来ならば辛く苦しいハズの冒険を、楽しく見せてくれる。

 さぁ、一行は妹がドラゴンの胃袋で消化されてしまう前に彼女を救出出来るのか!?
 そして、彼女を食べたドラゴンを退治して食べるのか!? あれ、それはちょっと......!?

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紀伊國屋書店渋谷店 竹村真志
紀伊國屋書店渋谷店 竹村真志
オーストラリア出身(生まれただけ)、5人兄妹(次男)、姉が年下(義理の)…と、自己紹介のネタにだけは事欠かない現在書店員8年目。欲しいモ ノは、中堅としての落ち着き。 エンタメは言うに及ばず、文学、ミステリ、恋愛、SF、外文、ラノベにBLまで、基本的にジャンルを問わず何でも読みます(でも時代小説はそんな に読まないかも…)。 紹介する本も「ジャンル不問。新刊・既刊も問いません」とのコトなので、少しでも、皆様の読書のお供になるような一冊を紹介出来ればと思いますの で、一年間、宜しくお願い致します!