『さよならの代わりに』貫井徳郎
●今回の書評担当者●紀伊國屋書店渋谷店 竹村真志
渋谷駅前の再開発に伴うテナントの閉館により、来月をもちましてお店も閉店するコトになりました。
「最後に一花咲かせよう!」というのでは、何だか湿っぽい話にもなってしまいそうですが、ここはひとつ「さよなら。」をテーマに集めたフェアをやろうじゃないか、という運びになりまして、(調べてみますと『さよなら○○』と題した本の多いこと!)そうなった時真っ先に思い浮かんだのがこの一冊でした。
今回ご紹介したいのは、貫井徳郎さんの『さよならの代わりに』(幻冬舎文庫)です。
劇団《うさぎの眼》の所属する和希は、新作公演の近付いたある日、祐里という少女と出逢う。彼女は「公演の最終日、看板女優・圭織の楽屋を見張っていて欲しい」という妙な依頼をしてくる。
当日の出演予定がある和希は、訝りながらも団内の親友・剣崎に、圭織の楽屋の見張りを頼んだ。
しかし、剣崎がトイレに行っていたほんの数分の間に、何者かによって圭織は殺害されてしまった。
そして、警察の捜査と団員らの証言から、《うさぎの眼》主宰にして、圭織の恋人でもあった俳優・新條が逮捕されてしまう。
まるでこうなる事態を予見していたかのような祐里に不審を抱く和希であったが、当の祐里からなされた告白は何とも衝撃的なものだった。
「私は、27年後の未来からやって来た新條の孫。祖父の冤罪を晴らす為にやって来た」
はたして、二人は真犯人を見つけるコトが出来るのか......!?
──はい。
このあらすじの時点で既に突っ込める部分があるんですね。
①未来から来たのなら、幾らでも事件を阻止したり、真犯人を見つけられるんじゃないの?
②祖父の冤罪が晴れちゃったら、そもそも祐里が過去へ来る必要も無くなるワケで、そうなると......あれれ~?
そう、時間SFというのは解釈の問題で様々に思いを巡らせるコトが出来るワケです('14年6月の記事参照)。
物語はミステリというより青春時間SFとしての色が濃いように思えます。①の疑問に関しての部分がこの作品最大の魅力でして、一読しただけでは頭が混乱しそうになります。今回、三度目くらいに読み返してようやく腑に落ちた部分もあったくらいです。それでも未だ上手く説明できる自信がありません。まぁ、思いっきりネタバレなので説明はしませんからご安心下さいませ。
自称未来少女の、不可解な言動のその真実が解き明かされる時、「さよなら」の代わりにどんな言葉をかければ良いのだろうか?
"運命"は変えられなくても、"未来"は変えられる。
そんなラストシーンが非常に印象的です。
今回のフェアでも「悲しいお別れでだけはなくて、『その次の一歩を』みたいな本も加えてみては」というアドバイスを店長から頂きました。
そんなメッセージも、この一冊が届けられれば良いな、と思います。
残り一ヶ月、皆様のお越しをお待ちしております。
- 『ダンジョン飯(1)』九井諒子 (2015年1月29日更新)
- 『あのとき始まったことのすべて』中村航 (2014年12月25日更新)
- 『壇蜜日記』壇蜜 (2014年11月27日更新)
- 紀伊國屋書店渋谷店 竹村真志
- オーストラリア出身(生まれただけ)、5人兄妹(次男)、姉が年下(義理の)…と、自己紹介のネタにだけは事欠かない現在書店員8年目。欲しいモ ノは、中堅としての落ち着き。 エンタメは言うに及ばず、文学、ミステリ、恋愛、SF、外文、ラノベにBLまで、基本的にジャンルを問わず何でも読みます(でも時代小説はそんな に読まないかも…)。 紹介する本も「ジャンル不問。新刊・既刊も問いません」とのコトなので、少しでも、皆様の読書のお供になるような一冊を紹介出来ればと思いますの で、一年間、宜しくお願い致します!