『昆虫の擬態』海野和男
●今回の書評担当者●農文協・農業書センター 谷藤律子
ページをめくるだに思い出すのは「ウォーリーをさがせ」や「とこちゃんはどこ」。
「昆虫の擬態」と題されて、解説をつけてもらってもなお見つからない。この写真のいったいどこに虫が??
いたっ! ここだ! と必死にその姿を見つけるうちに完全にこの本にのめりこんでいました。
擬態といえば石や葉っぱなど背景の柄にとけこむやつだよね、というのが一般的な解釈だと思いますが、実際は多種多様。
とけこみ型もあれば、あえて緑葉の上で枯れ葉のふりをするもの、頭をねらわれないようにお尻を頭に偽装するもの、ハチのふりをする蛾、目玉柄で威嚇するもの、鳥の糞の真似......うん、さすがにこれは絶対誰も捕食しない。
笑っちゃったのが「死んだふり」。それも擬態なのか。人間の子どももよくやりますね。でも地面に落ちて動かない虫は敵も素通りする。生き延びる知恵として実に有効。
そしてその技能もハンパない。表紙にもなっているコノハムシは羽が葉の葉脈にそっくりでそれだけでも見つけにくいのだが、さらに葉に似せるため身体を薄く平らにする。そのため、メスは前翅を平たくぴったり身体につけ、飛べる構造にはならない。オスはメスほど葉に似ていないので飛べるが、メスは飛ぶことができない。
また、コノハムシは葉の裏側に背中側を下向きにしてとまる。こうして太陽光線が上からあたった時、翅脈が透けてますます葉脈のように見えるのだが、実は反対側から光をあてると中心の内臓が黒く見える。腹側から光があたった時だけ、内臓の影まで消える!? 翅をめくるとその謎がとけるのて、それはぜひ本書にて。
最初はただただ、自然の神秘に呆然とみとれていたのが、だんだんと昆虫に語りかけられているような気持ちになってくる。もう、彼らに意志があるとしか思えない。
もちろん擬態は「環境に応じたものが生き残り、その有利な形質が子孫に伝わっていく」ダーウィンの進化論そのもの。突然変異と自然淘汰、という極めて自然な現象により起こっているのだが、擬態する昆虫たち、意志的に「ものすごく努力してる」ように見えるし、「今日はがんばってこんな感じにしてみたよ。似てる?」って聞かれてるような気になってくる。
葉の上で、わざわざ花に擬態してチョウや蜂をつかまえるハナカマキリなんて、「うふふ、きれいでしょ?」って艶っぽい笑い声が聞こえてきそうだし、まるで歌舞伎役者の顔のよう擬態したジンメンカメムシなんて、なんだか人間をからかってるみたいだなあ。生きるための命がけで得た特性だとわかっていつつも、昆虫たちが実に生き生き、楽しそうに見えてしまう。
そして何より。これらの擬態を見抜き、カメラにおさめた海野和男さんがほんとにすごいです。ご本人も「擬態写真45年の集大成と呼べる1冊となった」とおっしゃる自信作。昆虫諸君、次世代は海野さんに見つからない擬態を開発したまえ。
- 『小林カツ代と栗原はるみ』阿古真理 (2015年6月25日更新)
- 『ゆめのちから』盛田淳夫 (2015年5月28日更新)
- 農文協・農業書センター 谷藤律子
- 版元の農文協直営、日本で唯一の農業書専門店です。農林漁業・地域行政・環境・ガーデニング・食文化など農に関する分野を幅広く集めています。出 版界には長くいるものの、本社事務職勤務から当店への転属により書店員業はやっと2年生。となり同士でも別世界にように違う本屋ワールドは見るも の新しく、慣れないながら日々精進中です。また、書店員のほか個人で作詞家としても活動しています。趣味は沖縄芸能で、三線を抱えて被災地の仮設 住宅やデイサービスなどを仲間たちと旅一座でまわっています。
<農業書センター公式サイト>http://www.ruralnet.or.jp/avcenter/