『竹内浩三集』竹内浩三

●今回の書評担当者●農文協・農業書センター 谷藤律子

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 最近知られるようになった竹内浩三は日大芸術学部で映画を学んでいたがたくさんの詩を残して学徒出陣、23歳でフィリピンで戦死。代表作「骨のうたう」は誰しも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。


  戦死やあわれ
  兵隊の死ぬるやあわれ
  とおい他国で ひょんと死ぬるや
  だまってだれもいないことろで
  ひょんと死ぬるや

  白い箱にて故国をながめる
  音もなく なにもない骨
  帰ってはきましたけど
  故国の人のよそよそしさや
  自分の事務や 女のみだしなみが大切で
  骨を愛する人もなし
  骨は骨として勲章をもらい
  高く崇められ ほまれは高し
  なれど骨は骨 骨は聞きたかった
  絶大な愛情のひびきを聞きたかった
 それはなかった

「骨のうたう」は彼の悲しい最期もあいまって後年代表作となったが、戦争に行く前には実に素朴な言葉で青年の日々をつづっている。「放尿」なんて詩もあるんですよ。ええ、まさにその瞬間を描写したもの。

「かの女を 人はあきらめろと云うが おんなを 人は かの女だけではないと云うが おれには遠くの田螺(たにし)の鳴声まで かの女の歌声にきこえ 遠くの汽車の汽笛まで かの女の溜息にきこえる」とうたう「あきらめろと云うが」はうんうん、と彼の隣に座って肩をたたきたくなる。


 竹内浩三はきっとどこにでもいる普通の青年だった。そんな彼にも赤紙がくる。

「ぼくたちは すぐいくさに行くので いまわかれたら 今度会うのはいつのことか雨の中へ ひとりづつ消えていくなかま」(「わかれ」)

「この期におよんでじたばたと 詩をつくるなんどと言うことは いやさ まったくみぐるしいわい」(曇り空)

 竹内は特に反戦の旗をふるような学生でもなかった。国の情勢に従い、いくさに行くのなら手柄をたてようとも思い、しかし喜んで死にに行こうなどとも思えない、その時代誰もがそうだったような普通の青年だった。70数年前の日本はこんな青年たちを戦場に送ったのだ。平凡であること、当たり前に青春を生きようとすることを奪った残酷さが、竹内の素朴なことばから逆影のように浮かび上がる。

 いま全国で学生たちが戦争させるなと声をあげている。そんな彼らが竹内に重なる。
 死ぬのはいやだ、殺すのもいやだ、と若者が声をあげられる時代を日本は獲得した。
 ゆめ、竹内を死なせたような時代に戻してはならないと思う。

「骨のうたう」を詠んだ竹内は、しかし骨すら帰ることはなかった。戦死といってもバギオ島で生死不明が正しい。
 23歳の最期、彼は南の島で何を詠んだのだろうか。
 彼の最後の手帳は見つかっていない。

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農文協・農業書センター 谷藤律子
農文協・農業書センター 谷藤律子
版元の農文協直営、日本で唯一の農業書専門店です。農林漁業・地域行政・環境・ガーデニング・食文化など農に関する分野を幅広く集めています。出 版界には長くいるものの、本社事務職勤務から当店への転属により書店員業はやっと2年生。となり同士でも別世界にように違う本屋ワールドは見るも の新しく、慣れないながら日々精進中です。また、書店員のほか個人で作詞家としても活動しています。趣味は沖縄芸能で、三線を抱えて被災地の仮設 住宅やデイサービスなどを仲間たちと旅一座でまわっています。
<農業書センター公式サイト>http://www.ruralnet.or.jp/avcenter/