『ひきがね』島崎ろでぃー(PHOTO) 、ECD(TEXT)
●今回の書評担当者●農文協・農業書センター 谷藤律子
声が聞こえてきそう。島崎ろでぃー氏の写真からはいつもそう思う。
カメラマンの島崎ろでぃーさん、ラッパーのECDさん。2011年のアラブの春にはじまり、東北被災地、反原発のデモ、ヘイトスピーチに抵抗するするカウンター、辺野古の基地前座り込み、安保反対のデモなど、常に自身もプロテスターとして現場に立ち続けた二人のコラボレーション写真集。
島崎氏の作品に写っているのは意志を持った人たち。その意志を持って路上に出た人たち。
だからたとえ穏やかにほほ笑んでいる写真でも声が聞こえてくる気がするのだろう。その声は「原発反対」「差別をやめろ」「憲法守れ」などその場その場で違うけれど、通底しているのは「人間らしく生きさせろ」という叫びではないか。
ECD氏は「声を取り戻せ」とテキストで語っている。街中で自らの意志を叫ぶのは勇気がいる。でも本書を見ていると、東北震災、原発事故から起こった反原発のうねりが明らかに日本に新しい文化をもたらしたと感じられる。いや、百姓一揆の昔から日本人はそれほどおとなしかったはずではないだろう。私ぐらいの年代でも成田闘争などはうっすらと記憶がある。いつから私たちは自然に黙らされていたのだろう。
歴史的には「安保反対に国会前に20万人が集結」など冷静な数字で刻まれるのだろう。
でもその中にどんな人がいてどんな声をあげていたのか。未来の歴史をつくっていくのはその記録だ。ECD氏のコールは人々の思いを「声」という形に変えていく。島崎氏の写真はあげられた声を刻む。
安保やデモを記録した書籍は昨年末たくさん出版された。でもこの本はデモの「内側」からの声をひろった稀有な記録だ。「取材」ではない、本人が立った現場を刻んだ一冊。
写真集を語るのは難しいな。ぜひページをめくってこの本からの声を聴いてください。
- 『990円のジーンズがつくられるのはなぜ?』長田華子 (2016年1月28日更新)
- 『秘島図鑑』清水浩史 (2015年12月24日更新)
- 『深海でサンドイッチ 』 平井明日菜、上垣喜寛 (2015年11月26日更新)
- 農文協・農業書センター 谷藤律子
- 版元の農文協直営、日本で唯一の農業書専門店です。農林漁業・地域行政・環境・ガーデニング・食文化など農に関する分野を幅広く集めています。出 版界には長くいるものの、本社事務職勤務から当店への転属により書店員業はやっと2年生。となり同士でも別世界にように違う本屋ワールドは見るも の新しく、慣れないながら日々精進中です。また、書店員のほか個人で作詞家としても活動しています。趣味は沖縄芸能で、三線を抱えて被災地の仮設 住宅やデイサービスなどを仲間たちと旅一座でまわっています。
<農業書センター公式サイト>http://www.ruralnet.or.jp/avcenter/