『山口晃 大画面作品集』山口晃
●今回の書評担当者●三省堂書店営業本部 内田剛
~ある日のある夫婦のとりとめのない会話~
夫:芸術の秋には飽きたから、春こそアートに親しもうよ。不景気だけどちょっと奮発して相当ハイレベルな画集を買ってきたよ。ほら。(と、おもむろに行商のおばあちゃん並みに膨らんだリュックから一冊取り出す。)
妻:あら素敵。『山口晃 大画面作品集』ね。税込3990円(!)って、家計は痛むけど心が和むからよしとしましょう。なかなか良いお買い物をしたわね。表紙にもなっている「百貨店圖」なんてデパート好きの私にはたまらない作品。
夫:(小声で)お金もたまらないけど...作者の山口晃画伯は、僕たち夫婦で楽しみにしている唯一の雑誌連載の人だね。東京大学出版会のPR誌「UP」のエッセー漫画には毎月ハラハラドキドキしつつ笑わされているよ。『すゞしろ日記』の続編も早く出ないかなあ。
妻:そうねえ。我が家と同じで「亭主関白(?)」の香りが心地いいわね。夫婦の距離感が最高。プロフィールに「1969年東京生まれ」とあるからぴったりあなたと同世代。応援したくなるわ。
夫:画伯の作品集は前に『山口晃作品集』のタイトルで東京大学出版会から出ていたから今回は待望の第二弾。前作は、ケース入りで洒落ていたけど、ちょっと大きさがA4判と小さくて迫力不足だったね。苦肉の策でルーペのしおりはついていたけど、覗き込も感じじゃあ、いまひとつ物足りないし。
妻:でも今回は大画面で迫力満点。うわあ。図版の最大横幅が90センチってスゴイ...これを広げるスペースと、収納場所に困るのだけが玉に瑕ね。発行元が変わったのは、やはり大人の事情かしら。
夫:きっといろいろあるんだよ。男の厄年近辺には特にね。(実感)
妻:(パラパラとページをめくりながら)素晴らしいわねぇ。(うっとり顔)
夫:さすがだね。伝統的で確かな日本画の技法に、奇抜なアイディアが見事に調和しているね。シリアスなテーマにはユーモアが、日常に視点をあてた題材にはシュールさが際立っている感じ。スケール観も自由自在で、風刺の精神がすべての作品のスパイスになっているよ。改めて相当な描き手だと感じるね。とくに鳥瞰図のシリーズは何時間眺めてもまったく飽きないよ。(ここで約30分ほど経過)
妻:そうそう、画伯のトークイベントのチケットを買ってきたよ。画伯のトークはサービス精神旺盛で絵解きも楽しいのよね。毎回、会場は笑いの渦。今回は京都だけどっ。
夫:えっ(!)東京じゃなくて京都?それはずいぶんと遠征だね。
妻:大丈夫よ。東京会場も一緒に抑えてあるから。ちょうど平等院で画伯の描いた障壁画も特別公開されているから腰痛のリハビリも兼ねて駅から歩いて行きましょう。そうそう道中に老舗のお茶屋さんが経営している甘味屋さんもあるから途中休憩もできるわよ。
夫:...
妻:そんなに喜ばないで。さあ、夕飯は画伯のもうひとつの新刊『ヘンな日本美術史』(祥伝社1800円)を召し上がれ。
夫:これまた旨そうだなあ。いただきます!
(注)この会話は、ほぼフィクションで夫婦仲に影響するものでは一切ありません。
- 三省堂書店営業本部 内田剛
- うお座のA型で酉年。書店員歴うっかり23年。 沈黙と平和をこよなく愛する自称〝アルパカ書店員〟 不本意ながらここ最近、腰痛のリハビリにはまっています。 優柔不断のくせに城や野球など白黒つくものが好き。 けっこう面倒な性格かもしれませんが何卒よろしく。