『漫画 うんちく居酒屋』室井まさね

●今回の書評担当者●三省堂書店営業本部 内田剛

  • 漫画・うんちく居酒屋 (メディアファクトリー新書)
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 さあ、いよいよ日本全国まんべんなく春到来。歓送迎会に花見、園遊会にちょっとしたパーティー。好むと好まないに関わらずお酒の季節がやってきました。浮かれてばかりはいられません。こうしたお酒の場で嫌われるのが、時代遅れのオヤジギャグと空気を読まない薀蓄と相場は決まっています。酒よりも自分に酔ってしまう面倒なタイプ。そのどちらにもまったく縁がないと信じ込んでいる僕ではありますが、円もないことですし、ここは向学のため高額ではない新書に手を伸ばしてみました。帯の「ビールの大瓶はなぜ633mlか!?」の問いかけに「どうでもいい」と思ってはダメです。知らねばならないのです。

 おお、これは第一印象に違うことのないツッコミどころ満載で嬉しい限り。メディアファクトリー新書の楽しみのひとつは裏表紙の著者近影であると、ファンの間で話題となっておりますが(多分)、本書では主人公の雲竹雄三(うんちく・ゆうぞう)の渋いイラストが効いています。トレンチコートに中折れ帽の出で立ちはイカしているのですが、その名前......、他に候補はなかったのでしょうか? このベタな名前。個人的にはとても好きですが、あの不朽の迷著『ダジャレ練習帳』(ハルキ文庫)の著者・多治家礼(だじや・れい)氏を彷彿とさせる偏頭痛を伴うような響きがあります。(ふたりのトークイベントを期待したいもの。編集の方、お願いします。)いざかや、もとい、いささか出落ち的な危険な匂いを感じながら、パラパラと読み進めます。

 おや、意外や意外。絵柄も悪くないし、思いがけず相当濃厚な味わい。アルコール度数でいえば17.5%くらいでしょうか。居酒屋のカウンターの端っこで黄昏れる、というロンリーな表紙もいい感じ。肝心の薀蓄の質量もなかなかのもの。第1話の「とりあえずビール」に始まって第18話の「酒と女は2合まで」のラストまで。各章ごとには(教養再確認クイズ)もついていておさらいもバッチリ。テンポも良くて、まずまず読めます、酔えます。表情を変えない雲竹氏のパターン化した薀蓄披露(なんと300以上!)もページをめくる毎に安定感を増してヒートアップ。たたみかける薀蓄の嵐で店内を凍らせたかと思えば、若者と熱い議論を闘せたりと、とにかく大忙し。いつも飲んでいる雲竹氏のグラスの中身を知った時の衝撃なんて、いやいや、ここまで求めていないよ、というストーリー展開まで見せられて、思わず終電の時間を間違えそうになりました。

 さて、ここで得た知識は、決して飲み屋のご常連に話すべからず。「類は友を呼ぶ」と親しげに乾杯を迫ってくる吉田類氏に出会っても気を許してはいけません。話した瞬間、あなたは雲竹雄太郎(うんちく・ゆうたろう)もしくは雲竹雄子(うんちく・ゆうこ)と呼ばれます。胸の中にしっかりと封印して今度の飲み会に備えてください。なにはともあれ、悪酔いにはくれぐれもご注意を。では、お愛想。

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三省堂書店営業本部 内田剛
三省堂書店営業本部 内田剛
うお座のA型で酉年。書店員歴うっかり23年。 沈黙と平和をこよなく愛する自称〝アルパカ書店員〟 不本意ながらここ最近、腰痛のリハビリにはまっています。 優柔不断のくせに城や野球など白黒つくものが好き。 けっこう面倒な性格かもしれませんが何卒よろしく。