『愛しのインチキガチャガチャ大全 ーコスモスのすべてー』池田浩明
●今回の書評担当者●三省堂書店営業本部 内田剛
待っていました! これこそまさに僕らの本だ。表紙写真の少年の姿に思わず少年時代の自分の姿を探してしまった。
妖しい光を放つ、怪しげなガチャガチャ。我が青春の「コスモス」。忘れていたセピア色の記憶が走馬灯のように天然色となってここに蘇った。
パクリだってインチキだった平気だったあの頃。喜び勇み、なけなしの10円玉を握りしめて夢を買ったあの瞬間。それは人生はじめてお金を出して対価を求めた記念すべき一瞬だったかもしれない。
ハズれて当たり前。出てきたおもちゃに青ざめ、苦笑いしながら、それでも憎めなかったのが「コスモス」だ。ダメだとわかっていてもなぜかまたチャレンジしてしまう麻薬のような魅惑。わかっちゃいるけどやめられない、そして人生はそんなに甘くない。その心理を初めて明確に教え手入れたのが他ならぬ「ガチャガチャ」。
愛おしいその装置と戦利品の数々が一冊の本となって世に出されるなんて、本当に夢のようである。マニアックにもほどがある。一体だれがこんな本を読むのか。ここにいました。そう、こんな一般的受けしない本は大好きだ。
ゴミかそれとも不良品か。かの有名な「ロッチ」のシールや滑らないスーパーカー消しゴムはまだまともな方。エリマキトカゲのなめ猫風免許証、スライム骸骨、ガンダム風ダンガム、キン肉マン風消しゴム、「紀文」ならぬ「気分」と刻まれたおでん消しゴム、人面犬消しゴム......ページをゆっくりとめくる毎に、その当時の熱を帯びた空気感とカプセルを開けた瞬間の虚しさと怒りと笑いを思い出し、ちょっと哲学的な心模様になってしまう。
この出来映えは、それにしてもひどすぎる。犯罪スレスレどころか訴えられたら120パーセント敗訴となるであろうコレクションの数々はワッキー貝山氏によるもの。その数なんと10万点(!!)。
一般家庭ならひとつ残らず捨ててしまうでしょう。せいぜい一週間机の引き出しにあるか、お中元のお菓子の缶にワンシーズン放り込まれるのが関の山。ほぼ誰が見ても大事なものと思われないからいつの間にか処分され、無くなっても気づかないくらいの存在感。なぜこれが21世紀まで受け継がれているのがが摩訶不思議。しかしワッキー氏のおかげで、こうして消し去られた過去の記憶について語られるのだから感謝してもし過ぎることはない。
個人的になぜこんなにも共感できるかは、やはり世代の一致であろう。自分が1969年生まれ、蒐集家のワッキー貝山氏が1971年生まれ、そして、ライターの池田浩明氏が1970年生まれ。1977年にはじまり1988年に倒産した「コスモス」の黄金時代の記憶を共有するまったくの同世代である。
全国各地に10万台(!)あったという「赤いガチャガチャ」。もしかしたら同じ機械を使っていたのでは、と勝手に妄想。狙った獲物が出るまでその機械を揺さぶり続ける(絶対に真似をしないでください)光景まで目に浮かぶ。面識はないけれども、いいお友達になれそうな、そんな気がしている。
書店員としては、一冊でも多く売れて欲しいが、いちファンとしては知られたくない、密やかに大事に眺め続けていたい、そんな奇妙な印象を与える一冊だ。
人生に必要なことのすべて、いや、それは言い過ぎで、それでも結構大事なことを教えてくれた「コスモス」。あのカプセルには確かに夢がたくさん詰まっていた。(ただし開けるまでは。)
問答無用に貴重な「第一回庶民文化遺産」の文献資料部門の登録決定である。勝手に表彰。副賞なし。おめでとうございます!
- 『図説 宮中晩餐会』松平乗昌編 (2013年5月30日更新)
- 『役たたず、』石田千 (2013年4月18日更新)
- 『漫画 うんちく居酒屋』室井まさね (2013年3月21日更新)
- 三省堂書店営業本部 内田剛
- うお座のA型で酉年。書店員歴うっかり23年。 沈黙と平和をこよなく愛する自称〝アルパカ書店員〟 不本意ながらここ最近、腰痛のリハビリにはまっています。 優柔不断のくせに城や野球など白黒つくものが好き。 けっこう面倒な性格かもしれませんが何卒よろしく。