『鉄道が変えた社寺参詣』平山昇

●今回の書評担当者●三省堂書店営業本部 内田剛

  • 鉄道が変えた社寺参詣―初詣は鉄道とともに生まれ育った (交通新聞社新書)
  • 『鉄道が変えた社寺参詣―初詣は鉄道とともに生まれ育った (交通新聞社新書)』
    平山 昇
    交通新聞社
    864円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

「初詣」は信仰よりも企業の営利活動によって創られた意外に新しい年中行事だった!!
目にウロコを入れた記憶はないものの、これぞまさしく〝目からウロコ〟と呼ぶのだろう。日本の原風景ともいえるほど巷にあふれた神社仏閣、日本人の深層に根ざした神仏への敬虔な思い......全国津々浦々、伝統行事は数多あれどお寺や神社に纏わるものであれば、きっとそれ相当の長い月日によって培われて今に伝わったものだと単純に信じて疑わなかった。

 チョコレート屋が「バレンタインデー」を、コンビニが「恵方巻」を、結婚式場が「ジューン・ブライド」をまんまと定着させたように、「初詣」までもが電鉄会社の商売によって広まったなんて......ショックを乗り越して運賃精算が必要なほど、悔しいくらい面白すぎ。「初詣よ、お前もか!」と思わず口走ってしまった。

 しかし一体いつから「初詣」が日本人にとって欠かせない年中行事として定着したのだろう。

 本書では明治期以降の日本の中心である東京と大阪の二大都市圏を中心に、新聞記事や宣伝広告などの資料を紐解いて具体的事例を明らかにする。

 節分や年末年始の時期は、もともと閑散期で鉄道会社にとっては減収で頭を悩ませていたシーズン。当初は利益増加のための純粋な神頼みの一心だけだったのかもしれないが、庶民のご利益そのものや行楽への期待感と絶妙にマッチした点が大きい。割引券や開運お守りや周遊券などの、ライバル鉄道路線のサービス合戦も拍車をかけた。明治中期以降の景気高揚期の時代の要請でもあったのである。

 大晦日から元旦にかけての「終夜運転」も昭和以降のこと。関東の成田山と川崎大師、関西の伊勢神宮が代表例。幾つかの変遷がありながら、いまや「初詣」といえば鉄道の存在は不可欠となったのである。

 こういうなんとなく地味なテーマを世に送る著者はどれだけ年季の入ったベテランかと思いきや、プロフィールを確認すれば、「1977年長崎生まれ」とあってむしろ若手の研究家。(名前も身体をいたわってくれていそうな優しさが感じられていいですね。)

 いつも間にやら自分より年下たちがその道の第一線で活躍していることが多く、我ながら年をとったと感じざるをえない。ぼさっとはしていられないと危機感もほんの一時、芽生える。

『「つばさ」アテンダント驚きの車販テク』、『鉄道時計』、『ご当地「駅そば」劇場』、『国鉄スワローズ1950-1964』、『「鉄」道の妻たち』、『鉄道公安官と呼ばれた男たち』、『鉄道医、走る』、『ダムと鉄道』、『グリーン車の不思議』、『「時刻表」はこうしてつくられる』......これらはすべて交通新聞社新書のタイトル。敢えて羅列したのは、決してこの原稿の苦し紛れの字数稼ぎではない。ラインナップをながめただけでも、その尖がったマニアックぶりが伝わってくるではないか。

 しかし惜しむらくは、このシリーズは草むらに覆われた廃線跡をたどるがごとく、書店の店頭で探しにくい。新書と呼ばれるもまず新書コーナーにはなくて地図ガイドか鉄道本コーナーに置かれることが圧倒的に多い。

 鉄道ファンならずとも楽しめるこの新書だが、このままでは第三セクターへの道へ一直線かもしれない。もっと陽の目があたるべく地道な口コミを推進したい。求む、同好の輩たち。交通新聞社新書を読むと素敵なご利益があるかも!

« 前のページ | 次のページ »

三省堂書店営業本部 内田剛
三省堂書店営業本部 内田剛
うお座のA型で酉年。書店員歴うっかり23年。 沈黙と平和をこよなく愛する自称〝アルパカ書店員〟 不本意ながらここ最近、腰痛のリハビリにはまっています。 優柔不断のくせに城や野球など白黒つくものが好き。 けっこう面倒な性格かもしれませんが何卒よろしく。