『いくつ分かる? 名作のイントロ』中江有里
●今回の書評担当者●三省堂書店営業本部 内田剛
さて"明治書院"である。"学びやぶっく"である。"中江有里"である。
明治書院といえばそれはもう国語の教科書。学生時代に相当にお世話になった方も多いはず。創業は明治29(1896)年というから呆れるほどに歴史のある堂々たる百年企業。HPには震災や戦災などの苦難を乗り越えた沿革が載っており読み応えたっぷりであるが、ここを語り出すとページが尽きてしまうので残念ながらここでは割愛。ご興味あれば続きはWEBで。
そしてたぶん多くの方がご存じではないであろう「学びやぶっく」。2013年7月刊行の本作で驚きのシリーズ72作目(!)。地道に業績を重ねるのが社風なのか、と思ってしまう。
"おとなの教科書"を合言葉にそのラインナップは、「せいかつ」「さんすう」「しゃかい」「こくご」「しゃかい」「りか」「たいいく」といった科目に分かれ授業を受けているかのよう。
テーマの切り口もよく個人的に10冊ほど持っていた(ほとんど「しゃかい」)。表紙デザインもオレンジ基調でタイトル部分も白字で目立ちセンス抜群だが、ジャンルが多岐に渡りすぎて書店店頭で新刊時以外には探しにくいのが残念。見かけた瞬間にレジに向かうことを強くおススメしたい。
そんな愛すべき「学びやぶっく」最大の話題作は間違いなく本作であろう。なんといっても"中江有里"である。女優、脚本家にして作家。「BS週刊ブックレビュー」以降は書評家としても活躍され出版界のアイドル的存在である。もちろん表紙にもしっかりと写真が使われており「いま、この本を読んでいます。」と出せばほとんどの相手から「おじさん的ジャケ買いですね。」とニヤケられてしまうが、それはあえて否定せず、しかし内容が面白いことを強調したい。
前置きが異様に長くなってしまったが、新たな読書の楽しみを与えるきっかけとして最適なのがこの本のいちばんの長所である。作家が渾身の力を込めた冒頭の一文に脚光を当てる試みは、書店業界でも大きな話題となった「ほんのまくら」フェアが代表例であるが、本書では中江流のセレクトで「格差社会」「生と性」「エゴイズム」「女心」「生と死」など8つのカテゴリーに分け70作品を紹介。
構成もイントロページをめくると作品名と著者、あらすじが書いてあってクイズ形式でわかりやすい。星五つくらいの難易度表示や「○○文庫収録」などの書誌情報もあれば、もっと刺激的なブックガイドとなりえたはず。しかしここは読者に委ねる部分と気になったら探し出す楽しみを残してある、ということで好意的に理解。
そにしても名作の導入部分はなんと魅力的なことか。『雪国』『坊ちゃん』『草枕』『羅生門』『夜明け前』など古典的名作は、いま読み返してもさすが。そして現代作家の作品群からも新たな発見もたくさんあった。読みたくなってしまった本がありすぎて嬉しやらなんとやら。皆さんもこの一冊をきっかけに次の読書をぜひ。
Q...ある作品の冒頭です。その作品名は?
「ずいぶん昔に読んだ本を久しぶりに読み返してみると、その頃のことがよみがえってくることがありませんか?」
A...『いくつ分かる? 名作のイントロ』
- 『鉄道が変えた社寺参詣』平山昇 (2013年7月25日更新)
- 『愛しのインチキガチャガチャ大全 ーコスモスのすべてー』池田浩明 (2013年6月27日更新)
- 『図説 宮中晩餐会』松平乗昌編 (2013年5月30日更新)
- 三省堂書店営業本部 内田剛
- うお座のA型で酉年。書店員歴うっかり23年。 沈黙と平和をこよなく愛する自称〝アルパカ書店員〟 不本意ながらここ最近、腰痛のリハビリにはまっています。 優柔不断のくせに城や野球など白黒つくものが好き。 けっこう面倒な性格かもしれませんが何卒よろしく。