『うまい棒大百科』うまい棒同盟

●今回の書評担当者●三省堂書店営業本部 内田剛

 国民的駄菓子ともいえる「うまい棒」。この世に数多の棒あれども、最も人気があっておいしい「棒」といえば、TV中継つきの国民投票をするまでもなく「うまい棒」に間違いないだろう。遠足のお供に、職場のデスクの引き出しに、ビールのつまみに、ティータイムのアクセントに、小腹の空いたときの夜食代わりに......日常の様々な場面を思い浮かべると、そこにはいつも「うまい棒」があった。

 先日も富士山方面に出向いた時に、お土産で「世界遺産・富士山」がパッケージデザインされた「うまい棒」(5本入り)を購入したが、味はもちろん富士山味ではなくて普通のチーズ味。袋は大きかったが、観光地価格と割高感に、肝心の「うまい棒」がやや小さめのサイズだったような。

 おっと、そんな器の小さな話をしている場合ではない。『うまい棒大百科』である。18種類の現役商品味くらべ、30年以上にわたる歴史、幻の味やパッケージの数々、地域限定や企業コラボ、様々なグッズ、さらにはオリジナルの歌やゲームまで。読みどころが呆れるほどたくさんある。「通常は6gだが、とんかつソースだけ5g」などのトリビアは一体どこで披露すればよいのか困ってしまうが、この一冊であなたも「うまい棒」博士になれること間違いなし。

 個人的な「うまい棒」体験といえば、尊敬する作家の角田光代さんをサイン会にお招きした時に、控室に「うまい棒」を差し入れたこと。「うまい棒好き」なことを「どうしてご存じなんですか?」驚かれたものの、もちろんエスパーでもなんでもない。以前読んだエッセイに「うまい棒の牛タン塩味のレモンをしぼったところまで追求した味の再現力が凄い」云々と書かれていて角田さんといえば「うまい棒好き」作家とインプットされていたからである。

 本書にもその角田光代さんが【特別寄稿】として「うまい棒だからできること」というコラムを書かれており、その時を思い出して嬉しくなった。誰の記憶にも、こんな「うまい棒」体験があるのだろう。

 こんなにも素晴らしく夢と希望とアイディアのつまったこの『うまい棒大百科』がであるが、ここだけの話(拡散禁止で願います)、巷では思ったよりも売れていないらしい。立ち読み率は異様に高いものの、面白がるばかりで購買につながらず。なぜだろうか、と考えてみた。

 なによりも「やおきん公認」という信頼性抜群の内容の充実度はもちろんのこと。「うまい棒」がぎっしりと並べられたカラフルな表紙に、例の「ド〇えもん」を彷彿とさせるお馴染みのキャラクターのインパクト(「うまい棒」誕生の1979年が「〇ラえもん」TV放送開始の年で、どうも関係があるらしい)、「うまい棒」を食べて手がベタついても安心なビニールコーティング使用の表紙など、本の作りも非常に丁寧。

 潜在的なファンの多さから10万部突破も夢ではないが、唯一しかし最大のネックは本体1200円という値段だろう。一冊買うか、それとも「うまい棒」を120本買うか。究極の選択、ではなく後者を選ぶ読者が多数なのだろう。

 しかし断言できるのは、この本の価値は絶対に「うまい棒」121本以上の価値がある。これをお読みの皆さま、目先の食欲にとらわれることなく、どうか賢明な選択をしていただくよう、切に願います。うまいこと言っている暇はありません。消費増税、その前に駄菓子屋でなく書店を目指しましょう

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三省堂書店営業本部 内田剛
三省堂書店営業本部 内田剛
うお座のA型で酉年。書店員歴うっかり23年。 沈黙と平和をこよなく愛する自称〝アルパカ書店員〟 不本意ながらここ最近、腰痛のリハビリにはまっています。 優柔不断のくせに城や野球など白黒つくものが好き。 けっこう面倒な性格かもしれませんが何卒よろしく。