『続一等三角点全国ガイド』一等三角点研究会編
●今回の書評担当者●三省堂書店営業本部 内田剛
これは面白い本だ。想像を絶する超マニアックな登山ガイド。あまり他人には教えたくないような発掘本でもあるが、口の堅い皆様にはぜひともおススメしたい。こういった本を購入するのはよほど熱心な山好きか、それとも奇書蒐集を趣味とする好事家か。しかし「続」ってことは前作もあるわけで、その事実にゾクッ。とにかく妙に気になって仕方ない一冊。「三角点」がテーマだけに読みどころのポイント満載だ。
"好評"らしい噂の前作(「正編」と呼んでください。)は「500メートル以上」の546点の一等三角点のガイド本で、本作はより身近な「500メートル以下」にスポットライトを当てている。写真入りで紹介されたその数は429点で、正編との合計は975点。まさしく目が点。その凄さが分からないほど大変な数だ。思わず眩暈がした。待望していた人も恐らくたぶんたくさんいたのであろう。とにかく表紙から刺激的。素人には一体どこかわからぬ三角点の写真(カバーを外すとまた違った場所の三角点が登場)も興味を引くが、帯文も揮っている。「低山のハイキング向きの山だけにあるのではなく、近くはゴルフ場、住宅の庭、マンホールの中など、遠くは岬の先端から絶海の孤島まで...」、なんとも(!)かんとも(!)の連続である。
編者は一等三角点だけを「ひたむきに研究」している一等三角点研究会(正式名称は旧字体)である。その発足者はかの今西錦司氏というからなんだか急にアカデミックになってきた。発行のナカニシヤ出版はウィキペディアによると以前は京都大学正門前にあって人文科学などの大学テキストで有名な版元であるからこれもいわゆるひとつの学術書と呼ぶべきなのであろう。そんなお堅い出版社がなぜ山の本を?というのが素朴な疑問であったが、その謎はいとも簡単に解けた。社長の中西健夫氏が『山の本をつくる』という本を自社から出してしまうほどの無類の山好きであるからだ。非常に分かりやすい。とてもいい会社であることが容易に想像できる。京都に行ったら訪ねたい。HPを開けば難解な心理学系の専門書に混ざって「山歩きの本」のコーナーも。近畿圏の地図上をクリックすれば、その都道府県のナカニシヤ出版の山の本のリストページにジャンプ。思いがけず楽しい発見があるかも。
北は北海道から南は沖縄までコンプリート。500メートル以下だから本格的な登山というよりは低山散策の面白さを満喫。雑木林に学校校庭、自衛隊敷地など、普段は足を踏み入れる機会のない場所へも容赦なく辿りつく。無人島へはチャーター便を、自衛隊敷地には申請書をあらかじめ準備。その方法も書いてある。なんて親切。とにかく凝っている。都道府県別にまとめられた基準資料にコラムももちろん充実の内容。巻末の一覧表や地図などもいつまでも見飽きることはない。居ながらにして日本全国の山々を知的探索できるのに本体1800円は安すぎる!正続あわせて買ってしまおう。遊び心と高い志、深い愛情そして夢も詰まったこの作品。ナカニシヤ出版に拍手喝采。これからもゾクゾクさせてもらいましょう。
- 『かつて誰も調べなかった100の謎』堀井憲一郎 (2013年11月28日更新)
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- 三省堂書店営業本部 内田剛
- うお座のA型で酉年。書店員歴うっかり23年。 沈黙と平和をこよなく愛する自称〝アルパカ書店員〟 不本意ながらここ最近、腰痛のリハビリにはまっています。 優柔不断のくせに城や野球など白黒つくものが好き。 けっこう面倒な性格かもしれませんが何卒よろしく。