『南海の翼-長宗我部元親正伝』天野純希

●今回の書評担当者●ダイハン書房本店 山ノ上純

 私は小学生の頃から歴史が苦手で、中学でも高校でも選択できるときには地理を取り、出来る限り歴史に関わらないように(?)学生時代を過ごしていました。そんな私に歴史の面白さを教えてくれたのはやはり司馬遼太郎作品。とは言え、最初から入り込めた訳ではなく...周りに勧められるままに初めて読んだ『竜馬がゆく』は確かに面白かったし、坂本竜馬と言う人はとても魅力的でしたが、時代の流れもややこしいし、なぜ長州藩士と島津藩士の仲が悪いのかが分からない。登場人物も非常に多いですし、最初に読むにはなかなかハードルの高い作品でした。

 そんな中、私にでもわかりやすく、登場人物も少なく、歴史オンチでも知っている本能寺の変も出てくる、長宗我部元親を主人公にした『夏草の賦』を読んで、一気に戦国時代に興味津々。人に言うと「なんで?」と言われますが、私はこの本で号泣しました。そして、長宗我部元親の大ファンになったのです。歴史オンチなくせに「好きな戦国武将は?」と聞かれて、信長でも謙信でも信玄でもなく「元親」と応える自分が結構好きだったりします。あ、去年の大河ドラマのおかげで石田三成も好きになりましたが。
 そんな長宗我部元親、結構な人気らしく、2008年のアンケートではNHK大河に取上げて欲しい人物No.1だったとか。やはり私が気づくぐらいですから、歴史ファンの皆様も好きなんでしょうね。

 この長宗我部元親の物語が、すばる新人賞作家・天野純希氏によって新しく描かれます。11月末に発売になるこの作品のタイトルは『南海の翼-長宗我部元親正伝』。デビューして3年でこんな作品を書いてしまうなんて...凄いです。私の中の元親は司馬さんの物語の元親像でしたが、その元親像を決して壊すことなく、しかしながら、また新しい長宗我部元親に出会うことが出来ました。

 歴史をご存知の方なら、長宗我部家がどのような末路をたどったのかはご存知のことだと思います。それゆえ非常に切ない。決して心身ともに屈強な戦国武将ではないかもしれないけれど、その強く無い部分に非常に惹かれる。そんな元親がこの物語の中には描かれています。

 長宗我部ファン必読の1冊です。

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ダイハン書房本店 山ノ上純
ダイハン書房本店 山ノ上純
1971年京都生まれ。物心が付いた時には本屋の娘で、学校から帰るのも家ではなく本屋。小学校の頃はあまり本を読まなかったのですが、中学生になり電車通学を始めた頃から読書の道へ。親にコレを読めと強制されることが無かったせいか、名作や純文学・古典というものを殆ど読まずにココまで来てしまったことが唯一の無念。とにかく、何かに興味を持ったらまず、本を探して読むという習慣が身に付きました。高校.大学と実家でバイト、4年間広告屋で働き、結婚を機に本屋に戻ってまいりました。文芸書及び書籍全般担当。本を読むペースより買うペースの方が断然上回っているのが悩みです。