『小説を書く猫』中山可穂

●今回の書評担当者●ダイハン書房本店 山ノ上純

 距離を置いてこちらを見ていて、近づくとフッとどこかへ行ってしまう。餌をやっても、冷凍モノのさしみになんて目もくれない。新鮮な切り身を、清潔な陶器の器に入れてやってやっと食べに来る。そんな"気高き野良猫"をイメージしてしまうのが、この小説を書く猫・中山可穂さんの私のイメージでしょうか。

 作家生活18年。その年月を作品数で割ると、1年に1作も出ない。ご本人もよく「書けない」「スランプだ」と文章に書かれています。あれだけ濃密な、読んだだけでも心身ともにぐったりと(悪い意味ではなく)ものすごい読後感を味わうのですから、書いている方はどれだけ大変か、とても想像できません。それこそ、1年に3作も4作も作品が出来上がっていたら、書く方はもちろんのこと、読むほうもフラフラになってしまうかも。

 そんな著者の初のエッセイ集『小説を書く猫』が発売されました。子供の頃から感じていた自分のセクシュアリティについて。苦しい恋の話。恋人との出会いと別れ。作品を書くための旅の数々。音楽と映画、そして近況。なんとなくベールに包まれているイメージがある著者の、生身の姿が浮かび上がります。
また、何気ない日常が著者のフィルターを通すことによって、こんなにも文学的になるということが不思議と言うか、さすが小説家だなぁと。同じ体験をしても、自分じゃぁこうはならないだろうと、つくづく思いました。

 今は京都に住んでいらっしゃると言う著者。変な輩からの郵便物に脅えたり怒ったり。1人暮らしの女性なら、お怒りになるのもごもっともです。私からもお願いします。我らが気高き野良猫に、どうかちょっかいを出さないで頂きたい。そんなことをすれば、知らぬ間にフッと姿を消してしまうかもしれませんから!

 中山可穂さんには、心お静かに、京都で素敵な恋人でも見つけて、幸せに暮らしていただきたいと、いちファンとしては祈るばかり。そしてまた、あの濃密な物語をしたためていただければと心より願っております。

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ダイハン書房本店 山ノ上純
ダイハン書房本店 山ノ上純
1971年京都生まれ。物心が付いた時には本屋の娘で、学校から帰るのも家ではなく本屋。小学校の頃はあまり本を読まなかったのですが、中学生になり電車通学を始めた頃から読書の道へ。親にコレを読めと強制されることが無かったせいか、名作や純文学・古典というものを殆ど読まずにココまで来てしまったことが唯一の無念。とにかく、何かに興味を持ったらまず、本を探して読むという習慣が身に付きました。高校.大学と実家でバイト、4年間広告屋で働き、結婚を機に本屋に戻ってまいりました。文芸書及び書籍全般担当。本を読むペースより買うペースの方が断然上回っているのが悩みです。