『一路』浅田次郎
●今回の書評担当者●サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸
浅田次郎が「参勤交代」をテーマに書いたらしい。「参勤交代か、地味だな」正直な第一印象はその程度だった。だが、読み始めてすぐに自分の印象が間違っていた事に気づく。
「これ、ロードムービーみたいだな」「しかもこれ......面白いじゃねぇか!」
そして読んでいくうちに「あの気持ち」も思い出した。
入社して5年目だったか、文庫~雑誌~コミック担当と流れ流れて文具をようやく人並みにこなせるようになったそんな頃。店長に呼ばれて事務所へ行くと「おぅ!俺、辞めるから!」「!?」あまりに急なことで戸惑う俺に「悪いけど有給使うから......あとはヨロシク!」「!」
辞める理由も告げずにきれいさっぱり机を片付けてその日の午後から店長は居なくなった。
随分乱暴な話だし社会人としてどうよ? とは未だに思うけれど、それでもお店は開けなきゃいけない。
でも、どうすんだよ? 店を仕切るの? 誰が? オレ教わってねぇし!
そこからの1ヶ月は朝から晩まで無休で働いた。考えていたら多分ダメだった。
無我夢中でこなした1ヶ月後、偉い人が店に来て「お前店長やってみろよ」と言われた時のあの何とも言えない気持ちをふと思い出した。
『一路』浅田次郎。
江戸で剣と勉学に明け暮れていた数え19の小野寺一路は急逝した父の跡を継ぐため帰郷する。父の仕事は参勤交代の指揮を執り行う交代寄合蒔坂家の御供頭。
参勤交代の期日は迫るが彼は御供頭のなんたるかについて申し送りされていないそれくらいの急な父の死であった。頼りは200年前に書かれたらしき家伝の「行軍録」。行く手を阻むのは真冬の中山道!内部ではお家乗っ取りの企みが進行中!
道中苦楽を共にする仲間も個性溢れる一筋縄ではいかないアクの強いメンツばかり、担ぐべきお殿様は町の噂にのぼるほどのバカ殿様!どうするどうなる小野寺一路!
ハラハラドキドキの13日間に渡る「参勤交代(ロード・ノベル)」の結末は如何に!?
読んでいて背筋が伸びる! 「だよな!そうだよな!」って。
特に慣習だ! ルールだ! に縛られている人、新しく部下が付いた人、会社だけじゃなく学生だっておんなじ。きっと同じ場面で胸が熱くなり自分に置き換えて涙するだろう。
早くも来年の本屋大賞1次投票のうち1つ目が決まってしまいました。(個人的に)「時代物は弱い」と言う意見もあったりしますが「面白い」と思ったんだからしょうがない!
とにかく基本に返って鼓舞していこう。みんなを。そして自分を。
- サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸
- 1967年秋田生まれ。嫁と猫5匹を背負い日々闘い続けるローン・レンジャー。文具から雑貨、CDにレンタルと異業態を歴任し、現在に至る。好きなジャンルは時代物(佐幕派)だが、CD屋時代に学んだ 「売れてるモノはイイもの」の感覚は忘れないようにノンジャンルで読んでいます。コロンビアサッカーとオルタナティブロック愛好家。特技・紐斬り。