『ぼくの最高の日』はらだみずき
●今回の書評担当者●サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸
サッカー少年の成長を描いた「サッカーボーイズ」シリーズ。何かを好きでいる事、好きでいつづける事で叶えられることを教えてくれた『ホームグラウンド』。今まで読んだはらだみずきさんの作品にはいつもさわやかな空気が流れている。
『ぼくの最高の日』恋や友情に夢......今は無くしてしまったけれどそれぞれが今も大事に抱える幸福だった瞬間。彼らにとっての「最高の日」のエピソードはどれも味わい深い。小さなバー・ピノッキオに集う彼らの「幸せの瞬間」。嫌な事、つらい事があった時も寝る前にこの作品を読んでほしい、時間が無ければ最後のエピソードだけでも読んで眠りにつけば、また新しい一歩が踏み出せる。そんな本です。
新聞だったか雑誌だったか、何かで読んだのが「良い思い出と悪い思い出、どちらが多いですか?」みたいなアンケートで、出た答えが6:4で良い思い出が多かったそうです。
「自分の人生の中で、一番幸せを感じた瞬間って思い出せる?」
本文引用です。すみません。しかし......、深い。深い質問です。
思わず自分を振り返って、けっして短いとはいえない年月が刻まれていることにおののいてみたり。嬉しかったこと、悲しかったこと、楽しい、腹が立つ、可笑しい、寂しい、温かい、怖い、愛しい......そんな小さな思い出を積み重ねて私たちは生きている。
そして、その思い出たち(素敵な昨日)も(最悪だった昨日)も反芻していくことが未来へ進む推進力になる事だってあるんだと気付く。
この作品は5編の連作短編集です。語り手は5人。彼ら彼女らもまた、それぞれに蓄えてきた「記憶」たちの中から「一番幸せを感じた瞬間」を選び出します。
必ずしも甘い記憶ばかりではなくほろ苦い思い出も含めて。そして己の抱える痛みと対峙し乗り越える糧とするために。
全作品を読んでいないのに失礼な話ですが、僕ははらだみずきさんはとてもやさしい物語を語る人だという印象があります。痛みを抱える人のとなりで、ただ黙って座って時が経つ。(気付くと痛みは引いている)ただ、ずっと一緒に寄り添っていてくれるやさしさを。
- 『白雪姫には死んでもらう』ネレ・ノイハウス (2013年7月11日更新)
- 『カワイイ地獄』ヒキタクニオ (2013年6月13日更新)
- 『一路』浅田次郎 (2013年5月16日更新)
- サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸
- 1967年秋田生まれ。嫁と猫5匹を背負い日々闘い続けるローン・レンジャー。文具から雑貨、CDにレンタルと異業態を歴任し、現在に至る。好きなジャンルは時代物(佐幕派)だが、CD屋時代に学んだ 「売れてるモノはイイもの」の感覚は忘れないようにノンジャンルで読んでいます。コロンビアサッカーとオルタナティブロック愛好家。特技・紐斬り。