『リバーサイド・チルドレン』梓崎優
●今回の書評担当者●サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸
雨の匂いで始まる物語です。
雨といえば冷たい空気を思い描きますが、舞台はカンボジア
熱気を孕んだ温かいムッとした雨の匂いがしてきます。
主人公の日本人少年ミサキはとある理由からカンボジアでストリートチルドレンとして生活を始める事になります。劣悪な環境の下、それでも仲間に囲まれ過酷な日々を逞しく軽やかに乗り越える術を身につけてゆくのですが、ある日一人の仲間の死をきっかけに不可解な連続殺人に巻き込まれ......と、ミステリっぽい流れになっていますが話の重きは謎解きには置かれておらずむしろミサキ少年の心の傷と葛藤、そして再生を核とした物語としてとらえるとミステリ以上にハラハラドキドキしながら楽しめます。(もちろんミステリとして面白いですよ)
ストリートチルドレンを取り巻く過酷な状況だとか、ミサキ少年がストリートチルドレンとして生活するに至った理由がまたあまりにもやるせないのですが、何か......こう、実際に起こっていてもおかしくなさそうな話で怖ろしかったり、カンボジアの街中の雑踏の騒がしさ、日々の糧を得る為のエモノを漁りに行くゴミ山の異様な情景がリアルに感じられる。
その反面、作中で繰り返される押し寄せる水流に飲み込まれるミサキ少年の心象風景はどこか幻想的で悲しくも美しく演出された映像のように描かれている。現実的な描写と夢のような景色とが互い違いに過ぎてゆくうちに水流に飲み込まれ流されるだけだった少年の心が流されることなく抗い立ち止まり自分の意志で前に進むことを覚えてゆく。しなやかで強靭な輝きを放つその魂の行き先が健やかなものであるように願い、思わず拳を握りしめてしまうのです。
ところで作中にはもう一つの再生の物語が織り込まれていて、こちらは前作『叫びと祈り』を読んでいると「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」となる仕掛けになっています。
今月末に文庫になるようなので興味のある方は御一読をおすすめします。
ぜひあなたも「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」体験をあなたも。
- 『はじめからその話をすればよかった』宮下奈都 (2013年10月10日更新)
- 『日本人が知らない日本の戦争史』豊田隆雄 (2013年9月12日更新)
- 『ぼくの最高の日』はらだみずき (2013年8月8日更新)
- サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸
- 1967年秋田生まれ。嫁と猫5匹を背負い日々闘い続けるローン・レンジャー。文具から雑貨、CDにレンタルと異業態を歴任し、現在に至る。好きなジャンルは時代物(佐幕派)だが、CD屋時代に学んだ 「売れてるモノはイイもの」の感覚は忘れないようにノンジャンルで読んでいます。コロンビアサッカーとオルタナティブロック愛好家。特技・紐斬り。