『お父さんと伊藤さん』中澤日菜子
●今回の書評担当者●サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸
「オズの魔法使い」でドロシーは家ごと竜巻に吹き飛ばされオズの国へと不時着する。
彼女は家へ帰る方法を探す為に旅に出るわけだが、ここで言うドロシーの帰りたい家とは一緒に飛ばされてきたハコとしての家では無く大好きなおじさんとおばさんの待っているカンザスの地にあるあの家のことをさす。CMでハイムさんも歌っている「♪かえりた~い かえりた~い あったか我が家がまっている~」ここでいう我が家も家族の待っているあったかい「我が家なのだろう。家というもの、家族というものの定義について思考の森に深く分け入りそうになる。
そして本書『お父さんと伊藤さん』である。
彩さんは34歳 駅前の本屋でバイトをしながら生活をしている。同棲している彼氏の伊藤さんは54歳 小学校の給食のおじさんをやっているパートタイマー2人の暮らす家にある日、兄の家で暮らしていたはずの彩さんのお父さん(元教師)が転がり込んでくる。
何やらわけありのようだが兄の説明は奥歯に物が挟まった言い方で歯切れが悪く要領を得ない。すれ違いで生きてきた彩さんとお父さんの仲はもともとこじれ気味。ともかく父と娘とその彼氏の奇妙な共同生活が始まる事になった。
衝突とイライラで開始された同居生活だったが意外な「クッション力」を持つ伊藤さんの存在によって徐々に......やー読んで! 是非読んで!
作者の中澤日菜子さんは劇作をされている方のようで会話のリズムがとても小気味よい! 読みながら脳内で役者さんが台詞をしゃべりだす。お芝居を観ているような感覚でするすると読み進め、幕切れの余韻もとても素敵なんです。
いつもの帰り路、バスを降りる。今の季節は空気が澄んで星が綺麗に見える
オリオンもカシオペアもくっきりと夜空に映えている
「今日はアルコルが見えるだろうか?」
目を凝らし夜空を見ながらあったかい我が家への家路をたどる。
- 『20』堂場瞬一 (2013年12月12日更新)
- 『リバーサイド・チルドレン』梓崎優 (2013年11月14日更新)
- 『はじめからその話をすればよかった』宮下奈都 (2013年10月10日更新)
- サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸
- 1967年秋田生まれ。嫁と猫5匹を背負い日々闘い続けるローン・レンジャー。文具から雑貨、CDにレンタルと異業態を歴任し、現在に至る。好きなジャンルは時代物(佐幕派)だが、CD屋時代に学んだ 「売れてるモノはイイもの」の感覚は忘れないようにノンジャンルで読んでいます。コロンビアサッカーとオルタナティブロック愛好家。特技・紐斬り。