『叫びと祈り』梓崎優

●今回の書評担当者●サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸

 海外の動向分析を主な内容とする雑誌を発行する会社に勤務する青年・斉木。彼は情報を求め年中海外を飛び回る生活を送っている。

 『叫びと祈り』は7か国語を巧みに操る彼が訪れた世界の国々で遭遇する事件や奇妙な出来事を綴った短編集です。とにかく風景・情景の描写が感情豊かでロマンチックなので読むだけでその国に行った気になれる事うけあいです。5篇の物語が収録されているので5か国も!?

 まずは「砂漠を走る船の道」でサハラ砂漠の真ん中に放り出されます。塩を運ぶキャラバンに同行した斉木青年は殺人事件に巻き込まれ......続く「白い巨人」ではスペインの強い日差しとさわやかな強風の下、風車から人が消える謎について友人たちと推理合戦を繰り広げ「凍れるルーシー」ではロシア。霧深い木立に囲まれたロシア正教の修道院で一人の修道女との息詰まる論戦を制したかと思いきや!続く「叫び」は南米アマゾンの奥地で一つの部族が滅びる様を見届ける事に。......危険な状況ばっかりだな。

 最終話「祈り」は少し違ったシチュエーション。療養施設らしき場所に入院させられている「男の子」とその子を見舞う「青年」とのちょっとした推理ゲームが淡々と綴られていくのですがふとした記憶の綻びから話は意外な方向に......あとは読んで下さい! 是非!

 以前紹介させていただいた『リバーサイド・チルドレン』(東京創元社)の時も『叫びと祈り』を読んでおくと作中「あああああああ!?」となる事を書かせていただきました。未読の場合は今作とセットで読まれることをおすすめします。「うあああああ!?」体験をあなたも是非!

 と言う事で今回で僕の書評は最後となります。1年間も拙い書評を連載していただきありがとうございました。この1年間は過去最大に本を読むことに真剣になった1年だったと思います。その事は今後の書店員人生においてに大事な財産になっていくとともに締切の怖さもしっかりと刻み込まれました。今後もどこかで(連載の掲載順で)「ウチダさん」の書評を見ると頭の中に黄色信号が鳴り響き「サカイさん」の書評を見れば赤信号と共に全身に嫌な汗が流れるのだと思います。......もちろんいい意味で!

 本当に貴重な体験をありがとうございました。

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サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸
サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸
1967年秋田生まれ。嫁と猫5匹を背負い日々闘い続けるローン・レンジャー。文具から雑貨、CDにレンタルと異業態を歴任し、現在に至る。好きなジャンルは時代物(佐幕派)だが、CD屋時代に学んだ 「売れてるモノはイイもの」の感覚は忘れないようにノンジャンルで読んでいます。コロンビアサッカーとオルタナティブロック愛好家。特技・紐斬り。