『ぼくは落ち着きがない』長嶋有

●今回の書評担当者●東山堂 外販セクション 横矢浩司

僕の愛してやまない真心ブラザーズの新しいCD『LOVE ME LIVE』の初回限定盤に付く特典DISCは、過去の名作爆笑MCを集めた、真心版「すべらない話」とも言われてる激レアもの。そしてなんと!トラックNO.1に収録されているのが、2000年5月の盛岡公演における"ひとり焼肉事件"じゃありませんか!僕はこの長~いMC、当時しっかり生で聞いてました。たしかに今聞くと尋常じゃない盛り上がりっぷり。この時はアタマっから褒め褒めモードで、終始アットホームかつエネルギッシュなライブだったなあ。それにしても、8年前に見たライブの(それも一地方都市での)MCが、その8年後に自宅のステレオのスピーカーから流れてこようとは。いやはや、びっくり。でもって今回は、真心の長年のファンであり、桜井秀俊のブログにも過去何度か登場している芥川賞&大江賞作家、長嶋有の新作です。

高校の図書室が主な舞台。サボリ気味の図書委員に代わって「部活動」として業務を取り仕切るために発足した「図書部」。そこへ集まってくる、めいめいの事情を抱えた、クラスではちょっと浮き気味の高校生たち。彼/彼女たちの身に起きる些細な出来事、なにげない振る舞いが、主人公・望美の視点で語られる。そんな光景にもやがて変化が......。

僕が読みたかった学園小説はコレですよ!まず嬉しかったのが、運動部ではないけどオタクでもなく、道を外れているわけでもない、キラキラ輝いてはいないけれど、ダメダメでもなく、オシャレには程遠いが、センスが悪いわけでもない、そしてちょっとだけ自分なりの「こだわり」を持っている、そんな文化系高校生にスポットを当ててくれたこと。そこらへんの空気感がバッチリでした。登場する本のタイトルも、"文芸部ではなく図書部"という設定にピッタリの、絶妙なチョイス。あだ名のつけ方も、部室内で流行する言葉も「わかるわかる」という感じ。そして、ほぼ全編図書室およびその周辺で進んでゆく話の中で、ほんの数回、望美が校舎の外へ出る場面。とくにコンビニの前で、不登校になった頼子を「引っ張ってみる」ところ。ほんっとうに素晴らしい。僕はこの場面を生涯忘れないでしょう(山下敦弘の長回しで見てみたい)。

昨今隆盛の、熱き魂サクレツ!的なスポーツ小説ももちろんいいけれど、こういう文化系の、平熱だからこそ見えるもの、をきちんと描いたような作品も、それらの本と同じくらいに(そう、ちゃんと同じくらいに)読まれてほしい。とくにこの本は若い読者の間でスタンダードになってほしいなあ。きっと、ずっと長く記憶に残り続ける言葉や情景に出会えるはず。そして、とある瞬間にふと思い出した時、望美と同様こう思うにちがいない。

「本はつまり、役に立つ!」

最後に再び真心話。なんと本作には、日本文学史上(おそらく)初めて「サマーヌード」を口ずさむ人物が登場するのです!しかも2人も!その曲を知っている人物となると、なんと3人も!というわけで、同志たる真心ファンは全員買ってくださーい!(←やや暴走気味)

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東山堂 外販セクション 横矢浩司
東山堂 外販セクション 横矢浩司
1972年岩手県盛岡市生まれ。1997年東山堂入社。 東山堂ブックセンター、都南店を経て本店外販課へ配属。以来ずっと営業畑。とくに好きなジャンルは純文学と本格ミステリー。突然の指名に戸惑うも、小学生時代のあだ名“ヨコチョ”が使われたコーナータイトルに運命を感じ、快諾する。カフェよりも居酒屋に出没する率高し。 酒と読書の両立が永遠のテーマ。