『映画芸術 no.401 総力特集 相米慎二』編集プロダクション映芸
●今回の書評担当者●東山堂 外販セクション 横矢浩司
- 『映画芸術 no.401 総力特集 相米慎二』
- 編集プロダクション映芸
- →『映画芸術』公式サイト「映画芸術DIARY」
今回は、今年生誕60周年、つい先日もCSで特集放映のあった盛岡出身の映画監督、故・相米慎二氏の本を紹介します。2002年刊行のバックナンバーですが、まだ入手可能のようです。ほぼすべて相米監督の記事で占められていますよ。
僕の相米体験の多くは、仙台の某大学に通っていた15年くらい前に集中しています。当時レンタルで観られたものはすべて制覇し、映画館でやるとなればいそいそと出掛けていき、作品をひとつ観終えるたびに、少しずつ世界が広がっていく気がしたものでした。「何を描くか」以上に「どう描くか」、僕がそんな描き方をしている小説を好んで読むのは、明らかに相米映画の影響だな、と思っています。
ひと月ほど前、相米慎二特集を掲げた「もりおか映画祭」が、監督の故郷、ここ盛岡で開催され、「セーラー服と機関銃」「魚影の群れ」「お引越し」「風花」の4作品が上映されました。もし単なる上映会だったら、参加しなかったかもしれません。全部観にいったのは、ゲストが盟友・榎戸耕史監督だったから。もっと言えば、榎戸監督が、今回とりあげた本を編集した方だったから、なのです(上映前トークでは、常にこの本を脇に抱えていらっしゃいました)。
この本には、相米作品に関わったスタッフ・キャスト(薬師丸ひろ子から浅野忠信まで)や、同時代を生きた監督、観客として作品に触れていた後の世代の映画人たち、などなど総勢99名の、追悼の言葉や監督との思い出が寄せられています。監督は、公の場やインタビュー等で、「思いを言葉で説明する」ということにあまり乗り気ではなかったようで、インタビューをまとめた単行本も一冊きりだったし(絶版だし)、そのことで海外での評価が遅れている、との言説まであります。だからこそ、編集者、執筆者の「思い」の結晶ともいうべきこの本の価値は、たいへん大きい。この中にはイメージ通りの監督もいるけれど、意外な一面も窺え(「壬生義士伝」をめぐる宮島プロデューサーの文章にしんみり)、読者は「市民ケーン」を観るように、あるいは「悪女について」(有吉佐和子)や「チワワちゃん」(岡崎京子)を読むように、様々な人の眼から見た「相米慎二」というひとりの人間に、少しずつ近づいていくことになります。いとも簡単にカタログ的な情報が手に入ってしまうこの時代、出版物が出来ることのひとつの形なのかな、とも思いました。相米ファンはもちろん、映画祭や、CSで初めて作品に接した方も、ぜひぜひお買い求めを。
文学ファンとしては、構想を練っていたという「狂風記」(石川淳)と「富士」(武田泰淳)、やっぱり観てみたかったです。
追記)あ、「お引越し」の原作(ひこ・田中著、講談社文庫)、復刊してる!
僕の相米体験の多くは、仙台の某大学に通っていた15年くらい前に集中しています。当時レンタルで観られたものはすべて制覇し、映画館でやるとなればいそいそと出掛けていき、作品をひとつ観終えるたびに、少しずつ世界が広がっていく気がしたものでした。「何を描くか」以上に「どう描くか」、僕がそんな描き方をしている小説を好んで読むのは、明らかに相米映画の影響だな、と思っています。
ひと月ほど前、相米慎二特集を掲げた「もりおか映画祭」が、監督の故郷、ここ盛岡で開催され、「セーラー服と機関銃」「魚影の群れ」「お引越し」「風花」の4作品が上映されました。もし単なる上映会だったら、参加しなかったかもしれません。全部観にいったのは、ゲストが盟友・榎戸耕史監督だったから。もっと言えば、榎戸監督が、今回とりあげた本を編集した方だったから、なのです(上映前トークでは、常にこの本を脇に抱えていらっしゃいました)。
この本には、相米作品に関わったスタッフ・キャスト(薬師丸ひろ子から浅野忠信まで)や、同時代を生きた監督、観客として作品に触れていた後の世代の映画人たち、などなど総勢99名の、追悼の言葉や監督との思い出が寄せられています。監督は、公の場やインタビュー等で、「思いを言葉で説明する」ということにあまり乗り気ではなかったようで、インタビューをまとめた単行本も一冊きりだったし(絶版だし)、そのことで海外での評価が遅れている、との言説まであります。だからこそ、編集者、執筆者の「思い」の結晶ともいうべきこの本の価値は、たいへん大きい。この中にはイメージ通りの監督もいるけれど、意外な一面も窺え(「壬生義士伝」をめぐる宮島プロデューサーの文章にしんみり)、読者は「市民ケーン」を観るように、あるいは「悪女について」(有吉佐和子)や「チワワちゃん」(岡崎京子)を読むように、様々な人の眼から見た「相米慎二」というひとりの人間に、少しずつ近づいていくことになります。いとも簡単にカタログ的な情報が手に入ってしまうこの時代、出版物が出来ることのひとつの形なのかな、とも思いました。相米ファンはもちろん、映画祭や、CSで初めて作品に接した方も、ぜひぜひお買い求めを。
文学ファンとしては、構想を練っていたという「狂風記」(石川淳)と「富士」(武田泰淳)、やっぱり観てみたかったです。
追記)あ、「お引越し」の原作(ひこ・田中著、講談社文庫)、復刊してる!
- 『星のしるし』柴崎友香 (2008年10月23日更新)
- 『きのうの世界』恩田 陸 (2008年9月25日更新)
- 『時を巡る肖像』柄刀 一 (2008年8月28日更新)
- 東山堂 外販セクション 横矢浩司
- 1972年岩手県盛岡市生まれ。1997年東山堂入社。 東山堂ブックセンター、都南店を経て本店外販課へ配属。以来ずっと営業畑。とくに好きなジャンルは純文学と本格ミステリー。突然の指名に戸惑うも、小学生時代のあだ名“ヨコチョ”が使われたコーナータイトルに運命を感じ、快諾する。カフェよりも居酒屋に出没する率高し。 酒と読書の両立が永遠のテーマ。