『ドールズ 月下天使』高橋克彦
●今回の書評担当者●東山堂 外販セクション 横矢浩司
身近な場所が小説の中にでてくると、その作品との距離がぐんと近くなりますよね。この本の登場人物たちのたまり場となっている喫茶店「ドールズ」が(設定上)建っているという盛岡市上の橋町およびその周辺は、とても馴染み深い場所なのです。高校時代は毎朝の通学路だったし、今も外回りの時よく通りかかります。自宅からもそんなに遠くないので、すぐに情景が目に浮かびます。余談ですが、今年2009年はこの上の橋に擬宝珠が置かれて400年にあたる記念すべきイヤーになります。国の重要美術品として指定されている擬宝珠のあるような場所が、やはりこの物語にはふさわしいのかもしれませんね。
本の雑誌的には、やっぱり歴史・時代モノなんだろうなあ、克彦さんって。まあ世間一般でもそうなのかもしれないけど。たしかに『火怨』『炎立つ』『天を衝く』の睦奥三部作が与えたインパクトは相当なものだったし、『完四郎』や『だましゑ歌麿』のシリーズなどの娯楽時代小説も面白い。SF伝奇やミステリーにもファンは多いけど、でもでも僕にとっては、高橋克彦といえば、絶対この『ドールズ』なのでありますよ。
盛岡に暮らす小学生の少女、月岡怜。ある時その身体に江戸時代の人形師・目吉が転生。「ドールズ」の店主で父親の真司、古書店を営む叔父・恒一郎をはじめとする周囲の大人たちは驚きながらもそれを受け入れ、次々起こる多くの事件に立ち向かっていく......というのがこのシリーズのおおまかな概要。7年ぶり4作目となるこの新作では、新キャラ・聖夜が「ドールズ」の新人アルバイトとして登場。しかし彼女はただのサブキャラではなかった。どころかこの本のはじめから終わりまで話を引っ張っていく牽引役で、タイトルの「月下天使」とはまさしく彼女のこと。今までのシリーズのイメージを踏襲する第一章から、意外にもアクション物への接近をみせた第二章(この章いちばんおススメです)、そしてそして、まさかの『総門谷』チックな展開をみせる第三章。この展開は10年くらい前からすでに考えていたそうな。へえー。
このシリーズがいちばん好き、という理由は「愉しいから」だと思うんですね(あれ、僕だけですか?)。おどろおどろしい表紙、帯にも「恐怖小説の金字塔」とあるような本にそんなことを云うのもどうかとも思いますが、最後の最後にコワーイ落ちが待っているような怪談話とは違って、シリーズ全作品を通して、読後感はいつも清々しいし、大音量で60年代ポップスがガンガン流れる喫茶店「ドールズ」に集う真司、恒一郎、怜〈目吉〉、戸崎&松室の医大コンビ、恒一郎の恋人・香雪(今回出てこないのは何故?)などの面々の丁々発止のやりとりを読んでいるだけで、愉しい気分になってくるのです。できることなら、このまま何の事件もおこらずに、延々とこの場面が続いてほしいなんて思ってしまうほどです。克彦センセー、そういうの書くつもり、ありませんか? あ、ありませんか。
ちなみに三章にでてくる「車門」は、ウチの書店のすぐ目と鼻の先に実在する老舗の喫茶店です。作中で書かれたようなことは決して起こりませんので、安心して入ってみてくださいね。
本の雑誌的には、やっぱり歴史・時代モノなんだろうなあ、克彦さんって。まあ世間一般でもそうなのかもしれないけど。たしかに『火怨』『炎立つ』『天を衝く』の睦奥三部作が与えたインパクトは相当なものだったし、『完四郎』や『だましゑ歌麿』のシリーズなどの娯楽時代小説も面白い。SF伝奇やミステリーにもファンは多いけど、でもでも僕にとっては、高橋克彦といえば、絶対この『ドールズ』なのでありますよ。
盛岡に暮らす小学生の少女、月岡怜。ある時その身体に江戸時代の人形師・目吉が転生。「ドールズ」の店主で父親の真司、古書店を営む叔父・恒一郎をはじめとする周囲の大人たちは驚きながらもそれを受け入れ、次々起こる多くの事件に立ち向かっていく......というのがこのシリーズのおおまかな概要。7年ぶり4作目となるこの新作では、新キャラ・聖夜が「ドールズ」の新人アルバイトとして登場。しかし彼女はただのサブキャラではなかった。どころかこの本のはじめから終わりまで話を引っ張っていく牽引役で、タイトルの「月下天使」とはまさしく彼女のこと。今までのシリーズのイメージを踏襲する第一章から、意外にもアクション物への接近をみせた第二章(この章いちばんおススメです)、そしてそして、まさかの『総門谷』チックな展開をみせる第三章。この展開は10年くらい前からすでに考えていたそうな。へえー。
このシリーズがいちばん好き、という理由は「愉しいから」だと思うんですね(あれ、僕だけですか?)。おどろおどろしい表紙、帯にも「恐怖小説の金字塔」とあるような本にそんなことを云うのもどうかとも思いますが、最後の最後にコワーイ落ちが待っているような怪談話とは違って、シリーズ全作品を通して、読後感はいつも清々しいし、大音量で60年代ポップスがガンガン流れる喫茶店「ドールズ」に集う真司、恒一郎、怜〈目吉〉、戸崎&松室の医大コンビ、恒一郎の恋人・香雪(今回出てこないのは何故?)などの面々の丁々発止のやりとりを読んでいるだけで、愉しい気分になってくるのです。できることなら、このまま何の事件もおこらずに、延々とこの場面が続いてほしいなんて思ってしまうほどです。克彦センセー、そういうの書くつもり、ありませんか? あ、ありませんか。
ちなみに三章にでてくる「車門」は、ウチの書店のすぐ目と鼻の先に実在する老舗の喫茶店です。作中で書かれたようなことは決して起こりませんので、安心して入ってみてくださいね。
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- 東山堂 外販セクション 横矢浩司
- 1972年岩手県盛岡市生まれ。1997年東山堂入社。 東山堂ブックセンター、都南店を経て本店外販課へ配属。以来ずっと営業畑。とくに好きなジャンルは純文学と本格ミステリー。突然の指名に戸惑うも、小学生時代のあだ名“ヨコチョ”が使われたコーナータイトルに運命を感じ、快諾する。カフェよりも居酒屋に出没する率高し。 酒と読書の両立が永遠のテーマ。