『GENGA - OTOMO KATSUHIRO ORIGINAL PICTURES』大友克洋原画展 実行委員会
●今回の書評担当者●リブロ池袋本店 幸恵子
その人の名前を意識したのはいつの頃であったろうか。そのあたりのことは、記憶の捏造という脳の働きもあり何とも判然としないのであるが、中学校の教室では『童夢』や「少年マガジン」は回し読みされ、その人、大友克洋の名前と作品が熱も持って語られていたことは間違いない。今でも、わたしはその作品に仰天し興奮し続けている。
さて。
先日、秋葉原の3331 Arts Chiyodaで開催されている「大友克洋GENGA展」に行って来た。大友克洋のデビューから現在までを網羅した初の総合原画展ときいて行かずにいられようか。展覧会に合わせ大友さんの特集を組んでいた雑誌「芸術新潮」や「BRUTUS」「イラストレーション」も熟読。はやる気持ちを抑えながら会場に向かった。
会場の白い空間に大友さんの原画が並ぶ。
一目見てたまげてしまった。
大友さんの原画は、私なんぞの想像を軽々と超えた美しさだった。文字通り口をぽかーんと開けて見ていた。目が離せないとはこういうことをいうのか。言葉にならない。何も描かれていない余白にも何かが描かれているかのようだ。一つ一つを夢中になって見た。『AKIRA』の原画コーナーでは、約2300枚(!)の原画に吸い込まれるように展示ケースにがっつり手を掛けて見入ってしまい、スタッフの方に「ケースに手を触れないでください」と優しく注意されてしまう始末。(ほんと、すみません)
そして、はたと、これらの原画はあくまで「原画」であることに気がついて愕然とした。いま、こうして展示されて「作品」として鑑賞しているものは、「印刷」することを前提に制作された「原画」、つまり素材としてものでありそれだけで完結するものとして描かれたものではないのだ。複製され製品化されることが目的で製作されたものなのだ。ならば、それを集めた「印刷物」である展覧会カタログはいかなるものになるのか。
という訳で『GENGA - OTOMO KATSUHIRO ORIGINAL PICTURES』である。うれしいことに一般書店でも購入可能。判型はB4と大きい。河村康輔さんによる大友作品のコラージュ作品が表紙になっている(河村さんの作品はGENGA展のメインビジュアルにもなっていて、これも素晴らしい!ひとつひとつアナログ作業での産物だと聞いてなおさら吃驚。是非ご覧あれ)。
通常の図録のように、展示された作品の羅列による紹介ではなく、原画(=素材)がコラージュされた本書は印刷の解像度が高く、色塗りのムラらや写植の跡や黄ばみもちゃんとわかる。これまで発表されたマンガや画集、それからGENGA展とも違う方法で構成、編集がなされた、大友さんのスゴさがグワッとつまったカタログである。印刷された原画たちもきっと嬉しいに違いない。
そして、カタログを凝視しているうちに、また大友さんの漫画が猛烈に読みたくなった。
新連載が決まっている大友さんが、今、どのような原画を描いているのか。
ああ。早く読みたい。
- リブロ池袋本店 幸恵子
- 大学を卒業してから、大学の研究補助、雑貨販売、珈琲豆焙煎人、演劇関係の事務局アシスタントなど、脈略なく職を転々としていた私ですが、本屋だけは長く続いています。昨年、12年半勤務していた渋谷を離れ、現在は池袋の大型店の人文書担当。普段はぼーっとしていますが、自由であることの不自由さについて考えたりもしています。人生のモットーはいつでもユーモアを忘れずに。文系のハートをもった理系好きです。