第8回 中国緑茶いろいろ

IMG_2103.jpg

 

中国で最も飲まれている緑茶、その割合はなんと7~8割にも。
 美味しいお茶、歴史ある名優茶がたくさんあります。
 有名なものをいくつかご紹介。

 *西湖龍井*
 浙江省杭州の特産の緑茶。
 色緑、香郁、味醇、形美。色も香りも味も形も素晴らしいことから、四絶と言われます。
 龍井の名は、お水が綺麗なことから。陸羽様も、やっぱりその茶葉が育った土地の水で入れたお茶が一番、と言っています。綺麗な水で育てて、綺麗な水でいれる、簡単だけど大事なことなんですね。
 獅峰山、虎跑、雲栖、梅家塢、翁家山が有名な産地。
 茶葉は扁平で、明るい緑色。一芯一葉、新芽とその下の葉っぱまでを使った、贅沢なお茶です。うっすら銀色に光る産毛に包まれた、育ちの良いお嬢様、といった茶葉。中でも、24節季のうち、清明節(4月5日頃)前に摘んだ明前茶が最高とされています。それをすぎると、穀雨節(4月20日頃)までの雨前茶となりますが、龍井は明前茶でなければ無価値、と言われるほど、タイミングにシビア。
 「一是早、二是嫰、三是勤」は、「早い時期に、若い芽を、すぐに摘むべし」という意味。
 緑茶は酸化発酵させない、と書きましたが、龍井は攤放という過程を挟みます。ちょっとだけほっといて、ちょっとだけ酸化発酵させつつ乾燥させるのが目的。これによって、萎凋香という独特の芳香物質が生まれます。摘んできたまんまの茶葉からは、あのお茶の香りはしませんよね? 青臭い葉っぱのクセを消して、お茶の馥郁たる芳香にいかにして変えるか、いかにしてそのお茶の唯一無二の個性を出すか、お茶づくりはそれが全て、と言っても過言ではありません。龍井においては、少しだけ攤放することによって、龍井ならではの香りを生み出してるんですね。
 最初から最後まで、一つの鍋の中で、「抖、帶、擠、甩、挺、拓、扣、抓、壓、磨」と呼ばれる10もの手業を駆使するのも特徴......でも、この十の手業がそれぞれどういう動きかは聞かないで下さい。秘伝ということはおいそれと外には漏れないものなのです。
 でも、「手不離茶、茶不離鍋」(手は茶を離れず、茶は鍋を離れず)というくらい、全て職人さんの手によって生み出される、手間のかかる、でもそれだけ素晴らしいお茶なんです。
 馥郁、爽やかで、厚みのあるうま味。とろりとしたお茶が喉を滑り落ち、ふわりと戻ってくる甘み(回甘、と言います)は、液体の柔らかな光を飲んでいるよう。機会があれば、ぜひ一度、良い明前茶を飲んでみてください。

 *黄山毛峰*
 安徽省黄山の名優茶、十大名茶の一つでもあります。
 もともとあった雲霧茶の品質を高めてできあがったのが黄山毛峰と言われています。雲霧茶はその名の通り、雲と霧に閉ざされた、高い山でしか生まれないお茶。霧越しの柔らかな光によって、茶葉の香りはより繊細に、より芳しくなるといわれています。
 黄山は、正に水墨画そのものの絶景。1800メートルを超える峨々たる急峻に霧がまとわりつき、黄山松が岩の割れ目にしがみついています。
 その黄山で育つ黄山毛峰は、中国を代表する緑茶の一つ。
 茶葉を蒸すのではなく、鍋で烘る烘青緑茶。鍋がぱちぱち言うほどの高温で、一分間に50~60回も手を動かして烘っていきます。特徴は、小さな芽の部分のみを使うので雀舌と呼ばれる形、高温で烘るためやや黄色っぽい茶葉、一芯一葉の根本には、魚葉と呼ばれるくちゃっとした冬の間の葉っぱがくっついています。他のお茶は取ってしまうのですが、黄山毛峰の場合は一番摘み、特級だよ、という証のために残しておくんですって。
 茶壺の印象の強い茶芸ですが、形の美しい中国緑茶はグラスでいれることも多いんです。お湯の中でふわふわと浮き沈みする黄山毛峰の茶葉は、目も楽しませてくれます。
 栗の香りのような甘みのある香ばしさ、瑞々しさを残したまろみと深みのある味わいは、このお茶ならでは。