第11回 中国紅茶いろいろ

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 *祁門(キームン)紅茶
 中国紅茶と言えば、これ。ダージリン、ウヴァと並んで、世界三大紅茶と言われています(これにアッサムが入って四大になることも)
 産地は安徽省祁門県。
 ツヤツヤと美しい深い黒の茶葉に、金色の産毛をまとった若い芽が含まれています。上質のものになるほど細かく均一。
 水色は、明るい透明感のある、うっとりするような紅色。評茶の言葉で言えば、亮(明るい)紅。
 祁門香と呼ばれるその香りは蘭とも、薔薇とも。長く続く余韻が、まさに紅茶の王子様。
 1915年にパナマ太平洋万博で金賞を受賞し、世界的に有名になりました。

 さて、ここからはあくまで夢の中のお話として受け止めてくださいね。
 わたくし、中国の農業大学にお茶の勉強をしにいく夢を見ましてね。祁門県の茶葉工場に見学にも行かせていただいた訳です。でも、そこは軍の施設の近くで、外国人は立ち入り禁止。その工場に外国人が来たのは70年の歴史の中で初めてだったそうです(夢の話ですよ?)
 ひなびた田舎町にある古びた工場。中には最新の巨大設備もありつつ、職人さんの経験値がものを言う世界でした。茶葉をより分けるために、片隅にはザルのようなものが紐で天井からぶら下げられていて、それをいとも簡単にリズミカルに回す職人さんはこの道10年。それでもまだペーペーで上の行程を任せてもらうには修行が足りないそうです。私もチャレンジさせていただきましたが......うん、無理でした。
 ちなみに祁門紅茶は1.特貢、 2.貢茶、3.礼茶、4.特茗、 5.特級、6.一級、7.二級、8.三級の等級があり、一番上の特貢は政府の高官が贈答品として使うのでまず巷には出回りません。当然、私たちにも売ってもらえず......でも、こちらで買わせていただいた上から2番目と3番目の祁門も、文句なく素晴らしかったです。
 あ、これ全部、夢の中の話ですからね。

 *正山小種(ラプサンスーチョン)
 さぁ、この特徴的すぎる紅茶をなんと説明しましょう......液体の煙を飲んでいるような。あまりにも強烈な風味は、飲む人を選びます。「あんなもの飲めるか」となる人と、虜になってしまう人と......
 正山小種、ラプサンスーチョンのフレーバーは燻焙という過程で生まれます。松の濡れた枝を燃やし、燻製にするがごとく茶葉を燻すのです。
 口に入れる前からガツンと来る煙の香りは、龍眼に例えられます(私は綺麗な正露丸だと思ってますが)。口の中に含むと余韻はあくまで甘く、この紅茶が好きになると、他のは飲めなくなってしまうとか。
 400年以上の歴史を持つ、最古の紅茶。カレーや、西洋料理にも合うため、イギリス人が大変好むお茶でもあります。かの名探偵エルキュール・ポアロ(フランス人ですが、でも作者のアガサ・クリスティはイギリス人ですし)が愛したお茶でもあります。
 正山は、武夷山のこと。小種は青茶の一種の岩茶のこと。もともとは青茶だったんですね。一説には、あのグレイ伯爵が飲んで、同じような紅茶を、と作り上げたのがアールグレイだとか。
 もしメニューに正山小種、ラプサンスーチョンの文字を見かけたら、一度はお試しを。一杯飲み干す頃には、この紅茶の虜になってるかも。