第18回 青茶のお話

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 さぁ、書かねばなりますまい、青茶のことを。
 あ、その前に。青茶と烏龍茶はほぼ同義語だと思ってください。烏のように黒く、龍のようにくねくねした茶葉、という意味で烏龍茶と名前が付けられたとか。
 でも、烏龍茶なのに青茶? 茶葉が黒いし、お茶は茶色いのにどうして青? と思ったそこのあなた、そうなんです。問題はそこなのです。
 日本における中国茶三大誤解のうち一つが「烏龍茶は茶色い」(後二つは「緑茶は日本にしかない」、「茶藝ってこーゆーやつ(とアクロバティックにお湯を注ぐポーズ)でしょ?」)。
 あれはねぇ、缶&ペットボトル文化のもたらした大いなる課題だと思うのです。
 日本の烏龍茶は、1979年に伊藤園とサントリーが相次いで缶入りのものを売り出したことから一気に知名度が高まりました。その時のベースにしたのが、武夷岩茶。なぜなら、日本の烏龍茶は、清涼飲用水として冷やして飲むのが主流だったから。香り高い、飲み口の爽やかな烏龍茶の特性は、冷やして缶に詰めてしまってはまるで伝わらない。ならば、と、独自の渋み、苦味のある岩茶ベースの味わいにされたんですかねぇ。
 日本で烏龍茶の名前が広まったのは嬉しい、でも、同時に日本人が烏龍茶に持つイメージが「渋い、苦い、茶色い」と固定されてしまったのは悩ましい......ぐぬぬ。
 でも、烏龍茶と一口に行っても、発酵度はだいたい10~90%の間、本当にさまざまな品種があるんですよ。
 翡翠のような翠色、とろりと喉を滑りおち、余韻となって戻ってくる甘み、そして鼻から全身を包むように入り込み、圧倒的幸福となって脳を支配するあの香り!!
 自分が知っているのと全く違う烏龍茶に出会い、その一瞬で虜になり、中国茶にはまる人も多いのです。

 青茶は部分発酵茶、ゆえに緑茶と紅茶の特徴を併せ持っています(一説には、紅茶もそもそもは青茶のバリエーションとして生み出された、とか)。
 原料となるのも、緑茶ほど柔らかくはなく、紅茶ほど固くはない、ほどほどの成長具合。上から見て開いていることから、開面菜と呼ばれる新芽です。
 摘んだ茶葉はまず、水分調整と発酵のため萎凋。
 続いて、さらに発酵を進めるため揺青(做青とも)という作業に移ります。ザルでぐるぐる回すように葉っぱを揺らすんです。細かい傷をつけて、酸化発酵を促すんですね。
 ちょうど良い発酵具合になったら、高温で殺青をして、酵素の働きを止めます。この過程で、茶葉の持つ各種成分が変化して、あのえも言われぬ香気になる魔法。茶藝では、この香りを楽しむために聞香杯という専用の器を使います(飲む用はまた別に飲杯を用いる)。
 中国茶を楽しんでいると、脳みそがふわっと開くような快感を味わえるのは、香りを楽しむためにたくさん酸素を吸い込むからじゃないかなぁ、と思うのです。
 青茶の「青」、日本でも「青々とした若葉」のような言い方をするでしょう? なので、「青」は「若い、鮮やかな、緑」という意味でもあるのです。
 青々と美しい青茶に出会ったら。至福の香りを魂の底まで吸い込んで、思う存分青茶の世界に酔ってください。