第22回 黒茶いろいろ
さて、いつものように黒茶のいろいろな種類について解説したいところですが......これが悩ましい。
形で分けるべきか。
産地で分けるべきか。
時代で分けるべきか。
少数民族の喫茶習慣に合わせて、さまざまな種類が作られてきたため、とても複雑なのです。ここではその中でもほんの一角、比較的有名な種類を取り上げてみることにします。
*七子餅茶
普洱茶を丸くて平べったい、お餅のような形にしたものが餅茶(と聞くとちょっと不思議な気もする角餅文化圏の私)。運搬しやすいように、それを七枚重ねて一包としたのが、七子餅茶です。
重さは今でも一枚、約357g。一頭の馬に積める重さは60kg。左右に各12籠ずつ振り分けてぶら下げるので、60kg÷24÷7で357g。
緊圧成形する際に、内飛と呼ばれる紙を一緒に包み込みます。この内飛と、内票というお茶の説明書、さらには包装紙に施された印刷が、年代やブランドを見極める大事な手がかり。とはいえ、その分レプリカも多く、また台湾と中国のうにゃうにゃによって一時的にパッケージを外した状態で輸入されたものまであり......たいへん複雑怪奇な世界になっております。
*茯磚茶
磚茶は、平べったい煉瓦のような、長方形の形をしたお茶。茯の字は、加工されるのが夏の暑い時期、伏天(夏至から3番目の庚(かのえ)の日から始まる30‐40日間)だから、とも、地面に伏して作るから、とも。
伏茶、官茶、府茶、附茶、また湖南省原産なので湖茶とも呼ばれます(複雑すぎる......)。
茯磚茶が登場したのは1860年ごろ。最大の特徴は「金花」と呼ばれる冠突散嚢菌(麹菌の一種)を付着させること。この黄色のポチポチが多ければ多いほど、良いとされています(専用のルーペまであるらしい)。冠突散嚢菌を付着させるノウハウは、国家二級機密!!
*竹筒香茶
その名の通り、雲南省の少数民族が200年以上前から作り続けている、香竹と呼ばれる竹に詰め込まれた普洱茶です。確かに、竹に詰めちゃえば、運搬も保存も楽ですものね。しかも、竹の香りが茶葉に移って、とても爽やか。
飲むときは、竹筒ごと炭火で炙った後に割って茶葉を取り出すそうです。
*紫娟茶
なんと若い芽が紫色、という突然変異茶樹から生まれたお茶。アントシアニンが豊富なんですって。
かの陸羽様も、茶経の中で「紫者上、緑者次」と書いていらっしゃるように、とても風味が良いとか。
1950年代、雲南省の茶葉研究所の方が山の中で芽が紫の茶樹を発見したそうです。でもその方、まさかのスルー!! 1985年になってようやく「あれ、すごい発見じゃない?」と気づいて山に探しに行くも、見つからず......あわや幻の紫か、と思いきや、研究所の茶園に紫の目を持つ茶樹が一本だけ生えてたそうです。さすが中国、いろんなところが雑おおらか。
そうして生まれた紫色のお茶は、紫娟茶と名付けられ、まだまだ産量は少ないながら、アントシアニンの健康効果から欧米でも人気が高まっているそうです。
*月光白
漢字って便利ですよね、名は体を表すだけでなく詩情も付加できちゃうんだから。この月光白も、聞いただけで飲んでみたくなりません?
白毫たっぷりの表は白く、裏が黒い色をした、月の光に照らされたような茶葉です。その名の由来は、月光萎凋させるからとも。
発酵の浅い半熟茶。白茶の一種とする資料もあって、いろいろとややこしい。
*千両茶
千両は金額ではなく、重さ。36kgもある、鈍器のようなお茶です。お茶を竹の葉で覆い、更に外側を棕櫚の葉で、そして竹の皮できつくきつく編んでいきます。七人がかりで梃子を使って圧しに圧してぎゅ~っとぎゅ~っと。みっちり詰まった茶葉は重くて高くてとても一本なんて買えないので、主に輪切りにして売られるのだとか。
良いエイジングを経た千両茶はお値段も高価で、2011年の中国茶博覧会では、200万元(3800万円!!!!!!!)の値がついたとか。
もともとはこんな強大なお茶ではなく、百両茶、だったそうです(それでも3.6kgですから相当大きいけど)。
そして今では、さらにその上をいく万両茶なるものもあるとか......高さ4m、重さ300kg以上......これ、どんどんエスカレートしていって、そのうちビルくらいの大きさの億両茶とか、兆両茶とか出てきたりしないかしら。