第25回 花茶のお話

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 中国茶には六大茶類というのがありまして、なんて頭で書いたのに、七番目の項目です。
 花茶は、再加工茶という分類です。ベースになるお茶はあくまで六大茶類。それに再度手を加えるので、再加工茶。
 一番多いのは、ご存知、茉莉花茶(ジャスミン茶)。茉莉花茶しか飲まない地域もあるんですって。
 もともとは、レベルの低いお茶を再生するための加工だったんだけど、最近では良いお茶を原料にした、良い花茶ももちろんあります。
 茉莉花茶の他には、
 珠蘭花茶(中国南部原産の金栗蘭の香りをつけたお茶。和名のチャランは、葉がお茶と似ていることから)
 桂花烏龍茶(金木犀の香りをつけた烏龍茶)
 玫瑰紅茶(バラ科ハマナスの香りをつけた紅茶)
 などがあります。

 今回は、茉莉花茶の作り方を。
 さぁではテストの時に私を苦しめた加工表をどどんと。

1:茶柸処理
  ↓
2:白蘭打底
  ↓
3:茶花拼和 ←鮮花処理
  ↓
4:堆積窨制
  ↓
5:通花散熱
  ↓
6:収堆続窨
  ↓
7:起花
  ↓
8:乾燥
  ↓
 3~8までを繰り返す   ↓
9:提花
  ↓
10:起花
  ↓
 茉莉花茶

 待って待って、今から説明するので読むのをやめないで!!

 まず1:茶柸処理とは、茶葉の下処理。香りを入れやすくするために、水分を4~5%まで減らし、温度を35℃に調整します。ここで使われる茶葉は緑茶が多いです。
 続く、2:白蘭打底とは茉莉花の香りを付ける前に、他の花で香りの下ごしらえをすること。花1kgに対し、お茶は100kgほど。この時点ではあくまで花の香の裏打ちのようなものなので、控えめに。先生は、ファンデーション、と言ってました、なるほど。
 鮮花処理、茉莉花はまだ新鮮な午前中に、香りの強い蕾を摘みます。温度や水分量で香りが随分違ってくるのだそう。朝露のおりているような花がいいんですって。
 そうして摘んだ茉莉花を、3:茶花拼和でようやく茶葉と合わせます。茶葉、茉莉花、茶葉、茉莉花、とミルフィーユのように何段にも何段にも重ねるのです。
 4:堆積窨制、積み重ねて香りを茶葉に吸着させる工程。良いお茶は小さな箱で、大きな工場などでは機械でどさっと。
 5:通花散熱、窨制して5~6時間すると、お茶が蒸れて45℃くらいまで熱くなってきます。そのままにしておくと花の香が飛んでしまうので、全体を一度混ぜ、温度と湿度を調節。
 6:収堆続窨、そしてまた5~6時間、積み重ねて香りを移し。
 7:起花、これは花を取り除くこと。茉莉花茶って、お花が入ってると思ってる方、違うんです。必要なのは、花ではなく香りだけ。この時点ではもう花には香りはないので、味や保存のためにも、ここで花を取り除いておかないと。
 で、乾燥。でもこの時点ではまだあまり香りはないです。なので、良いお茶だと3~8の作業を何回も繰り返します。期間にして10~12日間ほど......大変!! 
 この窨を何回繰り返したかが、良い茉莉花茶の目安でもあるんです。
 何回も何回も繰り返し、最後にようやく9:提花。乾燥して香りが少し飛ぶので、少しだけ花を足します。
 この仕上げに加えるのは100kg/5~10kgの花。最終的には50~60kgの花が必要なんですって。
 で、最後にまた花を取り除いたら終了。
 ◯窨◯提茉莉花茶、という言い方を良くしますが、これは、何回窨制して、何回提花したか、それだけ手間をかけた良いお茶です、という証。
 ちなみに、四川省特産の「碧潭飄雪」という茉莉花茶は、最後に飾り用の花をたっぷりと混ぜ込みます。お茶の水色を碧潭、碧い湖に、そして茉莉花を飄雪、舞い散る雪に例えたなんともロマンチックなお茶。
 
 素晴らしい茉莉花茶は、ジャスミン以上にジャスミンです。凝縮された、鮮烈で濃厚な香りに酔いそうになるほど。
 なので、いつも私は程よく飲みやすい、上か2番目くらいのを買ってます。でももしまだあなたが、手間ひまかけて作られた茉莉花茶を飲んだことがないのなら、どうか人生に一度は最上級のものを飲んでみてください。
 その体験は何年たっても忘れられないほど、心と脳にしっかり残るはず。
 ふと思い出した時に、花の裏をくすぐるジャスミンの香りの記憶。自分しか知らない楽しみ。それってなかなか贅沢なことじゃありません?