第3回 下北沢でカキフライ定食なのだ
小田急線を下北沢で降りた。京王井の頭線に乗り換えて渋谷に戻る。この駅は乗り換えるときの改札がない分だけ、小田急線と井の頭線の文化がカフェオレのミルクとコーヒーのように微妙に混じっている気がするね。時間もちょうど昼過ぎなので、ここでごはんを食べていこう。下北沢はかつては苦手だったけど、この10年くらいの間にズイブンと街に慣れてきた。食事スポットもいくつか開発したけど、今回は前から行ってみたかった千草を今日は訪問しよう。
カキフライだな。
おお、ここだ「千草」!
確か、下北沢の駅前にあったよなあと南口を出て少し歩いていると、ありました。店の前に立つといろいろなメニューが記してあるが、ランチサービスはカキフライ定食850円かあじ開き定食600円。あじの開きも捨てがたいが、カキフライの魔力の前にはかなわないので(私的には)、カキフライだと心に決めて入店。細長い店内でズラリとテーブル席が並んでいる。奥の席が空いていたのでそこに座り注文する。出てきたお茶を飲みつつしばし待つことに。
机の上にあるメニューを見ていると「にんにく醤油の揚げ豚定食」というのがある。うーん、どう考えても強そうなおかず力なので気になるなと思っていると、注文したカキフライ定食登場。おお、こりゃカッコいいや。まずは味噌汁から。油揚げとワカメのシンプルな味噌汁だがダシがきいていて実においしい。
カキフライは5個! 大体この数が多いな。
続けてカキフライにレモンをしぼってソースをかけて食べる。衣カリカリ系で中身はやや火が通っている感じだが、カキ自体が味が濃いタイプでしみじみと多幸感に包まれる。いやあ、カキフライは海の贈り物です。さらに付け合わせのマカロニサラダも実にうれしい。漬物(沢庵)と冷奴の小鉢もあるのでご飯はもりもり食べられるよ。
かくして完食。食後にランチのサービスとしてコーヒーもついているのがえらい。砂糖をしっかりと入れて、ゆっくりとコーヒーを飲みくつろぐ。かくして会計をして店を出る。
コーヒーもうれしい。
ご飯とコーヒーで満足した後は古書店へ直行だな。なんとも豊かな時間だと思いつつ、下北沢のなかでもお気に入りの幻游社へ。日々変化する下北沢の街にあって、ここだけは悠久の時間が流れているように変化しない、素晴らしい古書店。店頭の100円均一のレベルの高さはもちろん、店内の値付けの安さも感動的なのだった。
まずは店頭の100円コーナーで澤地久枝『1945年の少女 私の「昭和」』(文春文庫)を買うことに。戦前、戦中、敗戦後の生活記録はもう無条件に買ってしまうようになってしまった。澤地さんなら、なおのこと面白いだろう。ちなみに、帰宅後読むと予想通りの面白さで大満足。特に女史が五味川純平の助手をしていたとき、『戦争と人間』の資料集めのために古本市の常連だったときに購入した『昭和十六年以降 資源特別回収綴 寒河江中学校』という資料をもとに書いた「暮らしの消えた日」がよかった。
いずれにしても、この文庫も古書絡みの本だったわけだと苦笑したわけだが、実はこのとき店内で買ったのが、古書界の重鎮・八木福次郎『古本蘊蓄』(平凡社)。これがなんとたったの500円! 定価は2500円(税別)なので、これはなんだか申し訳ない値段だったけど、ありがたく買わせていただいた。美本だったし、そもそも持っていなかったからね。もう本当に大満足で600円をお店で払って通りにでる。その流れで近くのダイコクドラッグ(ここは渋谷店と同様にお菓子が安いのだ)によって、揚げ煎餅を買って井の頭線に乗ったのであった。
【追記】幻游社は残念ながら6月で閉店しました。
幻遊社。カッコいい。
『古本薀蓄』買えてうれしいよ。