7月20日(火) 私の2010年上半期ベスト10

戦友の恋
『戦友の恋』
大島 真寿美
角川書店(角川グループパブリッシング)
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火群(ほむら)のごとく
『火群(ほむら)のごとく』
あさの あつこ
文藝春秋
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遠まわりして、遊びに行こう
『遠まわりして、遊びに行こう』
花形 みつる
理論社
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1『戦友の恋』大島真寿美(角川書店)
2『火群のごとく』あさのあつこ(文藝春秋)
3『遠まわりして、遊びに行こう』花形みつる(理論社)
4『天冥の標2 救世群』小川一水(ハヤカワ文庫)
5『おれのおばさん』佐川光晴(集英社)
6『彼女のしあわせ』朝比奈あすか(光文社)
7『サキモノ!?』斎樹真琴(講談社)
8『七人の敵がいる』加納朋子(集英社)
9『家族トランプ』明野照葉(実業之日本社)
10『ストロベリー・ブルー』香坂直(角川書店)


 まず、大島真寿美『戦友の恋』の奥付記載発行日が2009年11月30日であることに触れておきたい。2009年のエンターテインメント・ベスト10を発表した「本の雑誌」2010年1月号は12月10日発売だった。ということはその原稿は11月20日ごろに書いている。つまり『戦友の恋』の発売前だ。ようするに、2009年ベスト10に間に合わなかったのである。

 しかもこの素晴らしい小説が、直木賞か山周賞、そのどちらかを受賞したのならともかく、候補にもならず、それではせめて吉川英治文学新人賞は受賞するだろうと思ったら、こちらの候補にもならなかった。まったく信じられない。唯川恵『肩ごしの恋人』と、角田光代『対岸の彼女』というヒロイン友情小説の二大傑作が上梓されたのは、2001年と2004年である。もうあれから9年と6年が過ぎている。ようやくその二大傑作に拮抗し得る作品が登場したのだ。

「本の雑誌」の新刊ガイドで絶賛しようと思ったら他の評者に取られてがっくりしたのを、たったいま、思い出した。そこで読売新聞に書いた『戦友の恋』評の一部をここに引いておく。

「漫画原作者であるヒロイン佐紀の喪失と再生の日々を描く長編だ。編集者の玖美子が病で急逝する冒頭の一編から始まるが、だからといって玖美子はこの物語から退場しない。ずっと登場し続ける。
 たとえばワタル君は玖美子が愛した人の息子だが、大学生になってから佐紀に会いにきたワタル君は、幼いときにそばにいてくれた玖美子のどたばたぶりを懐かしそうに語りだす。ライブハウスのオーナーである律子さんは、あんたたちって、ああだこうだ、どうでもいいようなことを飽きもせず、くっちゃべっていたねえ、そうだ玖美子に献杯しようと突然言う。これは、桜が雨に光っていた夜のことだ。誰かが言いださなくても、佐紀が思い出す。まだ若く、二人で突っ走っていたころの玖美子を思い出す。
 帯の惹句から引けば、残された者の哀しみは誰にも癒せないのだ。死者は私たちの中でずっとこうして血を流し続けているから。だから、喪失の痛みを抱えて、ただただ丁寧に毎日を送るしかない。その日々を、大島真寿美は静かに、そして鮮やかに描きだす。
 群を抜く人物造形、巧みな挿話、とても柔らかく気持ちのいい文章まで、すべて素晴らしい。大島真寿美の傑作だ」

 まだまだ語り足りないような気もするが、きりがないので次に移ろう。2位は、あさのあつこの時代小説。「本の雑誌」7月号のガイドで取り上げたばかりなので、詳しい内容紹介はそちらに譲りたい。『戦友の恋』が、『肩ごしの恋人』『対岸の彼女』に拮抗し得る作品なら、この『火群のごとく』は、『蝉しぐれ』『藩校早春賦』に拮抗し得る作品だ。本来なら、この『火群のごとく』が2010年上半期のベスト1だ。大島真寿美『戦友の恋』は2009年のベスト1にすべきだったろう。発売日があと10日早ければそうなっていたが、こちらにズレてきたため、『火群のごとく』は残念ながら2位にとどめる。

 3位は、花形みつるのヤングアダルト小説『遠まわりして、遊びに行こう』。これも「本の雑誌」のガイド欄で紹介ずみである。特別のところに行かなくても、商店街を歩くだけで楽しかった──そういう幼い日の胸の鼓動が蘇ってくる小説だ。

 ここまでがベスト3だが、表に入れなかった作品にも触れておく。三浦しおん『天国旅行』、椰月美智子『フリン』、百田尚樹『モンスター』『影法師』、はらだみずき『スパイクを買いに』、久保寺健彦『オープン・セサミ』、河原千恵子『白い花と鳥たちの祈り』、万城目学『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』、中田永一『吉祥寺の朝日奈くん』、高殿円『トッカン──特別国税徴収官──』、月村了衛『機龍警察』、村中豊『新宿夜想曲』、石井睦美『兄妹パズル』と、記憶に残った作品は数多い。

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 4位の『天冥の標2 救世群』は、全10巻という大長編SF小説の第二部だが、内容的にはここから始まっているので、第一部を未読の方でも大丈夫。実は最近、ふたたびSFにはまっているのである。書店に行ったら、「ゼロ年代ベストSF第1位」というポップがあり、おお、それなら読みたいと、伊藤計劃『虐殺器官』(ハヤカワ文庫)を買ってきて読んだのが先月のこと。これが面白いの何の。で、楽しく読了してから、待てよと気になったので、北上次郎×大森望『読むのが怖い! 帰ってきた書評漫才〜激闘編』(ロッキング・オン/2008年4月刊)を書棚から取り出して調べてみた。これほど面白い小説を、大森が対談のテキストに選ばないなんてことがあるだろうか。それが気になったのである。
 するとやっぱり、その第26回(2007年秋号)で対談書評のテキストになっていて、「面白かった」と私が発言している! つまり3年も前に読んでいたわけ。読んでいる最中も気がつかなかったとは驚いた。2回も楽しんだのだから、オレはいいんだけど。
『天冥の標2 救世群』の内容について、まったく触れてないことにいま気がついたが、ま、いいか。

 5位の佐川光晴『おれのおばさん』はガイド欄で取り上げなかった(ような気がする)ので、ここで詳しく紹介しておきたい。これは、恵子おばさん運営の養護施設に預けられた陽介の日々を描くもので、巧みな挿話と群を抜く人物造形が素晴らしい。さまざまな理由で他の施設をはじき出された中学生が暮らすその施設に陽介が入ることになったのは、父親が顧客から預かった金を着服して逮捕されたからだ。名門中学に入学したばかりの陽介み退学せざるを得なくなり、家族が離散することになったからだ。

 つまりそこで陽介は他の中学生や、恵子おばさんを始めとする大人たちと触れ合うことによって成長していくことになる。奄美大島で過ごす夏休みの日々がきらきら光っているのもいい。文学系の人だが、この長編は現代エンターテインメントの流れの中に置いてみたい。元気が出てくる本だ。

 6位の『彼女のしあわせ』、7位の『サキモノ!?』、9位の『家族トランプ』、10位の『ストロベリー・ブルー』の4冊は、「本の雑誌」のガイド欄で紹介ずみだ。それぞれ、3人姉妹小説、お仕事小説、家族&友情小説、中学生小説の、傑作として読まれたい。

 8位の『七人の敵がいる』には少しだけコメントを付けておく。これは働く母親の大奮闘の日々を描くPTA小説だ。これまでの加納朋子の作品とは一味も二味もことなっているが、うまいのなんの。帯には「ワーキングママ、専業主婦に、育児パパ、そして未来の子持ち候補たち必読小説」とあるが、こういう小説をこの作者が書くとは思ってもいなかった。嬉しい驚きといっていい。

サキモノ!?
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