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5月22日(水)武士の娘

鉞子(えつこ) 世界を魅了した「武士の娘」の生涯
『鉞子(えつこ) 世界を魅了した「武士の娘」の生涯』
内田 義雄
講談社
1,728円(税込)
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 高田馬場に所用があったので駅前ビルに入っている芳林堂書店に寄ると、内田義雄『鉞子』(講談社)という本があった。世界を魅了した「武士の娘」の生涯、との副題が付けられている。その帯にはこうある。

 戊辰戦争で河井継之助と対立した家老の娘
 鉞子は、東京で教育を受け、結婚のため海を渡った
 英語で書かれた日本人女性の自伝『武士の娘』に
 なぜ世界は注目したのか

 河井継之助? 思わず手が伸びた。
 冒頭を立ち読みする。司馬遼太郎は雑誌文藝昭和四十二年五月号の「名著発掘」というエッセイで次のように書いたという。

「日本には『福翁自伝』のほかにいい自伝がないとおもっていた。ところが数年前、新潟県長岡市の図書館で借りだした杉本鉞子さんの自伝の見事さにおどろかされた。長岡からの帰途、「白鳥」の車中で読み、京都についたころに読みおえたが、ひさしぶりにいい小説を読んだあとの文学的感動を覚えた。同時におもわぬ書物を発見したよろこびをもおぼえた」

 恥ずかしいことに私、その『武士の娘』を未読である。そこまで言われると読みたくなる。この『鉞子』は河井継之助に対して大変厳しい書で(たとえば、当時日本には三年前に終結したアメリカの南北戦争で余った大量の武器が入ってきたというが、あちらでは機動性に欠け、野戦では使用されなかったガトリング砲を、河井継之助はアメリカで取引されていた値段の十倍以上で買い入れた。長岡藩の武装力の象徴だといわれたが、実際にはほとんど役立たなかったと著者は書いている)、司馬遼太郎『峠』を読んで以来ずっと河井継之助のファンであった私は当惑してしまう。

 それはともかく、その『鉞子』を購入してから、数階上にある「ふるほん横丁」を覗いたのである。すると、筑摩書房の世界ノンフィクション全集の端本が数冊棚にあり、なんとそこに第8巻があった。その背にこうある。『ソーニャ・コヴァレフスカヤ/キュリー自伝/ブロンテ姉妹/武士の娘』。おお、武士の娘だ。

 実はこの筑摩書房の世界ノンフィクション全集、揃いを持っている。いちばん最初のやつはたしか全50巻だったはずだ。黄色い箱に入ったやつなので、古本屋で見かけたことのある人も少なくないと思う。その後、この筑摩書房の世界ノンフィクション全集は何度も版を変え、そのたびに巻数を変えているが(内容も少しずつ変わっているようだが、その詳細は確認していない)、個人的には最初の全50巻版がいちばんいいと思う。

 というのは、その第47巻に玉井喜作「シベリア隊商紀行」が収録されているからだ。海を渡った日本人の記録を私が集め、読むきっかけとなった明治期のシベリア横断の記録である。明治三十一年、ベルリンの出版社から独文で刊行され、我が国に翻訳されたのは昭和三十八年、この筑摩書房の世界ノンフィクション全集に収録されたときが初訳。ちなみに、ベルリンの出版社から独文で刊行された原書を久生十蘭が浅草の夜店で見かけたとエッセイで書いていた──という話を何かで読んだ記憶があるが、そのもともとの久生十蘭のエッセイは未見。国書刊行会から久生十蘭全集が刊行されていて、そのエッセイの巻が出たので新刊書店で立ち読みしたが、そこでも発見されなかった。じっくり読みこまなければいけないのだろうが、それだけのために購入するのもちょっと、とためらっているのである。

 ええと、何の話だ。そうだ、『武士の娘』だ。筑摩書房の世界ノンフィクション全集は全50巻を持っているのだが、どこにあるのかわからないし、探し出すのも大変だ。その棚にあった端本は300円。ちょっと高いかなという気もしたが、いいやと購入。で、家に帰ってきてから中をぱらぱらやると、その『武士の娘』は抜粋だった。

「シベリア隊商紀行」だって抄訳なんだから、『武士の娘』も疑わなければいけないのに、どうして完訳と思ってしまったのだろうか。『鉞子』を改めて読むと、「筑摩書房の世界ノンフィクション全集にその抜粋がおさめられている」ときちんと書かれている。さらに続けて、「文庫版は刊行から二十年、現在でも年に五千部以上の増刷を続け、多くの読者をえてきた」とある。なんだ文庫があったのか。

武士の娘 (ちくま文庫)
『武士の娘 (ちくま文庫)』
杉本 鉞子
筑摩書房
998円(税込)
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 だったら全集の端本など買わずに最初から文庫を買えばよかった。そこで近くの街の新刊書店を数店覗いたが、その文庫版がない。こうなると気になるもので古本屋にまで足をのばす。すると文庫版を見つける前に、筑摩叢書版と遭遇。文庫になる前、昭和四十二年に筑摩叢書の一冊として刊行されていたのである。どうやらこれは完訳らしいので購入してきたが、今後文庫版を見つけたら絶対に購入するような気がしてならない。もう必要ないんだから買わないように。

 しかし、『武士の娘』の完訳が出るならば、「シベリア隊商紀行」の完訳が出てもいいのではないか。そう思う春なのである。

5月9日(木) バーバリアン

 暖かくなったので突然、半袖のラガーシャツが欲しいと思ってしまった。なぜラガーシャツなのか、ということに深い理由はない。ポロシャツでもいんんだけど、そのときに着ていたのが長袖のラガーシャツだったので、この半袖を買いに行こうと思っただけ。

 とりあえずネットで調べてみると、バーバリアンの新着半袖がずらりと並んでいる。ちなみに、バーバリアンとはカナダのラガーシャツのブランドである。私、ずっと昔に買ったバーバリアンの長袖のラガーシャツを愛用しているのである。買ったのは10年以上前だが、丈夫なので何度洗ってもへたれない。XLなので相当大きい。少しくらい太っても大丈夫なのだ。

 通販で購入するよりもやっぱり直接見て、触ってから買いたい。そこでバーバリアンのショップリストを見る。町田のジーパンショップの名前がそこにあったので行ってみると、おやおや、置いてない。仕方がない。ショップリストにあった南大沢のワイルド1という店(アウトドア用品のショップだった)まで行くか。

 しかし、ここでも見当たらない。店員に聞いてみると、「以前は置いていたんですが、置かなくなったんです」との返事。おいおい、私はバーバリアンのショップリストを見て、ここまで来たのだ。それなのに置いてないとは。だったら、ショップリストから外しておいてくれ。

 翌日は東京競馬場に行ったので、その帰りに立川の伊勢丹に行った。府中本町から立川までは10分ちょっと。近いんですね。立川に降りるのは何十年ぶりか。いやあ、立派な街で驚く。先日、大宮に行ったら駅前が大都会で驚いたが、そういえば駅前の風景は似ているな、大宮と立川。

 立川の伊勢丹に、バーバリアンのラガーシャツが置かれていると、ショップリストに載っていたのだが、今度は大丈夫か。ところが、カジュアル衣料のフロアに行っても目当てのものはやっぱりない。ここもだめかとうなだれて1階に降りてきて、そのまま帰ろうかとも思ったが、念のためにインフォーメーションで聞いてみた。
「バーバリアンの」
 そこまで言うと、すかさず、
「バーバリですか」
 と案内嬢。ほほお、バーバリアンはさすがにバーバリの知名度には勝てないか。しかし早とちりだなお姉さん。いや、カナダのラガーシャツのブランドで、とかなんとか仕方なく最初から説明すると、どこかに電話をかけた案内嬢、何階のカジュアル衣料のフロアに置いてありますとの返事。いや、そこには行ったんだけど。

 半信半疑で再度行ってみると、先刻は見逃したのですね。ありましたバーバリアン。お前はここにいたのか! ところが、よく見るとそこにあったのは長袖だけ。私は半袖を探しているんだけど。

 結局、まだバーバリアンの半袖とは遭遇していない。早くラガーシャツを購入して、次にビルケンシュトックのサンダルを買いに行きたい、というのが今年の夏のささやかな愉しみなのだが、その日はいつ来るのだろうか。

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