10月18日(金)300
- 『図南の翼 十二国記 (新潮文庫 お 37-59 十二国記)』
- 小野 不由美
- 新潮社
- 704円(税込)
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- 『エンターテインメント作家ファイル108 国内編』
- 北上 次郎
- 本の雑誌社
- 2,310円(税込)
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いま発売中の小野不由美『図南の翼』(新潮文庫)の巻末に寄せた解説は、私が書いた300本目の文庫解説である。その『図南の翼』の解説でも書いたのだが、私が初めて書いた文庫解説は、集英社文庫の『殺しの前に口笛を』(生島治郎)という小説だった。1978年7月のことだ。
それから35年で、300冊。1年平均で、8.6冊である。これはけっして多いほうではない。この業界には、1年間で15冊や20冊の文庫解説を書く人はたくさんいる。大森望や香山二三郎は間違いなくその数をクリアしているし、他にもいるだろう。1年間に20冊の文庫解説を書く人なら、「300」は15年で達成できる数字にすぎない。
しかし私、年間2点という年が、1978年、1979年、1986年、1991年、1992年と5年もあるのだ。さらに3~5点という年もあるので、1年平均8.6冊をよくクリアしてきたなというのが実感である。
初期のころの文庫解説は、ワープロ導入前の手書き原稿であるから残っていない。ワープロ導入後に書いた原稿は、パソコン導入のときに全部テキスト変換してハードディクスに入れたので今でも読むことが出来るが、それ以前の原稿は読むことが出来ない。文庫の現物もないから、いったい何を書いたのやら、自分でもわからない。
300点のリストを見ていると、これ本当にオレが書いたのか、という書目がないではない。全然覚えていないのだ。逆に、この文庫解説はオレが書いたんだよな、どんなことを書いたのかちょっと確認しようと、古本屋の棚で見かけた文庫本に手を伸ばすことが時にあるが、その解説者が私ではないことが結構ある。ようするに記憶力が悪いだけか。
別に「300点」を目標に生きてきたわけではないから、ものすごく嬉しいというわけではない。しかし年齢からいって「400」点はないだろうから、区切りのいい数字としてはこれが最後だろう。そう思うとやっぱり少しの感慨はある。
ここでは北海道の山下さんにお礼を申し上げたい。もうずいぶん前のことになるが、「北上次郎解説文庫リスト」を作成して送ってくれたのである。2007年11月刊のコーディ・マクファディン『戦慄』(ヴィレッジブックス)までのリストだったから、それをいただいたのはその年の年末だったろうか。山下さんは古本屋などで「北上次郎」が解説を書いている文庫を見つけると購入してリストを作成してくれたのである。
山下さん作成のこのリストがなければ、自分の書いた文庫解説の完全リストを作るという発想は生まれなかったろう。私、書いたものをほとんど残していないのだ。いまはパソコンがあるから、ハードディスク内に自動的に収納されるけれど、手書き時代の原稿はまったくない。2006年に、『エンターテインメント作家ファイル108 国内編』(本の雑誌社)を杉江由次君が作ってくれたとき、古い原稿を入れられなかったのはそのためである。特に、戸川昌子論を収録できなかったのは心残りだ。ずいぶんあとに私が巻末に戸川昌子論を書いた本そのものが出てきたが、このときはハードディスクにも入っていないので断念したのである。
山下さん作成の「北上次郎解説文庫リスト」は、巻末対談、座談会、著者インタビュー、扉文まで含めた完全版だったので、それらのものは落とし(純粋な解説だけをカウントしたかった)、さらに山下さん作成のリストで落ちていた書目を足し、2008年からは自分で作成してWEBに載せてきた。つまり、最初に、山下さんが作成してくださったリストがなければ、今回の『図南の翼』の解説が300点目であるとはまったくわからなかったということになる。だから、お礼を申し上げたい。
これからも注文があるかぎり文庫解説を書いていくだろうし(いくら書きたくても注文がこなくなれば書けない)、年間のリストはこれまでと同様にWEBに発表していくつもりだが、これが一つの区切りだ。山下さん、ありがとうございました。