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1月26日(月) 2014年の短編小説ベスト3

 わけあって、2014年の中間小説雑誌(1月号~12月号)を読んだ。対象にしたのはSF、ミステリー、時代小説を除く短編のみ(ただし連作は含む)。読み切り短編が多い雑誌もあれば(オール讀物)、少ない雑誌もある(小説NON)。各誌に乗っている読み切り短編(連作を含む)の合計は、だいたい平均すれば月に40~50編くらいか。それで12カ月であるから1年間に約500~600編を読んだことになる。

 その中から佳作40編、傑作10編を選んでみた。以下に掲げるのは傑作10編だ。

「あやとり」皆川博子(小説現代5月号)
「テンと月」小池真理子(小説現代5月号)
「魂のあるところ」松原耕二(小説宝石7月号)
「代体」山田宗樹(野性時代7月号)
「寺小屋ブラザー篠田」平岡陽明(オール讀物7月号)
「千日のマリア」小池真理子(小説現代7月号)
「兵隊系女子」宮木あや子(小説宝石8月号)
「長い一日」飛鳥井千砂(小説宝石8月号)
「ギブ・ミー・ア・チャンス」荻原浩(オール讀物8月号)
「流離人」浅田次郎オール讀物8月号)

 中間小説雑誌を一年間読んだ印象は、意外と言っては失礼だが、小説宝石が健闘している。この雑誌は、亀和田武の連載エッセイを始めとして読み物も充実しているが、短編小説もいいものが多い。佳作40編の中にも小説宝石掲載が五編ある。ついでなので、その5編のタイトルも書いておく。

「アリス少年とポイズン少女」久保寺健彦(小説宝石2月号)
「ピアノコンチェルト」松原耕二(小説宝石2月号)
「カプセルフィッシュ」大西智子(小説宝石6月号)
「中国からの花嫁」奥田英朗(小説宝石7月号)
「指先の砦」宮木あや子(小説宝石10月号)

 ちなみに傑作10編の中に小説新潮の名がなかったが、佳作40編の中に9編あることを書き添えておく。中間小説雑誌御三家はやっぱり強い。

 ところで、佳作40編、傑作10編よりも強く印象に残った作品が4編ある。そのなかには、奥田英朗「正雄の秋」(小説現代11月号)のような傑作もあるが、直木賞作家がうまいのは当然という気もするので(そうであって欲しいので)、ここでは触れないことにする。ここで称賛したいのは残りの三編だ。つまり、私が選んだ「2014年の短編小説ベスト3」である。それが以下の作品。

①「夜の小人」飛鳥井千砂(小説宝石10月号)
②「星球」中澤日菜子(小説現代8月号)
③「床屋とプロゴルファー」平岡陽明(オール讀物11月号)

 飛鳥井千砂は2005年に『はるがいったら』で小説すばる新人賞を受賞してデビューした作家で、この三人の中ではいちばん作家活動が長い。昨年は『女の子は、明日も。』が読ませたが、おそらく2015年は飛躍の年になるだろう。「夜の小人」については手元のメモにこうある。

「ディスプレイ業者の青年のこだわりと仕事を描く。素晴らしい。ラストは感動!」

 本来ならもう少し詳しく紹介すべきなのだが、読みおえたあとに雑誌をすべて処分してしまったので、これ以上は紹介できない。私の興奮を伝えるだけにとどめておく。

 中澤日菜子は『お父さんと伊藤さん』で小説現代長編新人賞を受賞した作家で、著作はいまのところこの一冊のみ。手元のメモには「演出家に惚れた脚本家を描く。構成もキャラもすべていい!」とある。これからが期待される新人だ。

 平岡陽明は2013年にオール讀物新人賞を受賞した作家で、著作はまだない。手元のメモから引けば、「ゴルフ記者とツアー・プロの話で、情報てんこもりだが、ドラマも構成もうまい」とある。才能のある人が出てきたな、というのが素朴な印象である。

 この三作、「夜の小人」「星球」「床屋とプロゴルファー」は偶然に書かれた傑作ではない、ということも書いておきたい。飛鳥井千砂と平岡陽明の他の作品が「傑作10作」の中にあるように(中澤日菜子は小説現代2月号の「ことこと電車」が佳作40作の中にある)、この三人の作家の実力があふれてきた、ということだろう。2015年中にはそれぞれ単行本になると思われるので、楽しみに待ちたい。

1月13日(火) 書評家4人の2014年解説文庫リスト

〔大森望〕
1月『密室・殺人』小林泰三/創元推理文庫
  『混沌ホテル』コニー・ウィリス(大森望訳)/ハヤカワ文庫SF※
2月『空襲警報』コニー・ウィリス(大森望訳)/ハヤカワ文庫SF※
3月『変種第二号』フィリップ・K・ディック/ハヤカワ文庫SF※
4月『11 eleven』津原泰水/河出文庫
  『秘密結社にご注意を』新藤卓広/宝島社文庫
5月『L change the worLd』M/集英社文庫
  『SFマガジン700国内篇』大森望編/ハヤカワ文庫SF※
6月『きつねのつき』北野勇作/河出文庫
  『契約 鈴木いづみSF全集』鈴木いづみ/文遊社 *ハードカバー
  『さよならの儀式 年刊日本SF傑作選』大森望・日下三蔵編/創元SF文庫※
7月『小さな黒い箱』フィリップ・K・ディック/ハヤカワ文庫SF※
  『はい、チーズ』カート・ヴォネガット(大森望訳)/河出書房新社※
8月『夏色の想像力 第53回日本SF大会なつこん記念アンソロジー』今岡正治編/草原SF文庫 *序
9月『突変』森岡浩之/徳間文庫
  『サンリオSF文庫総解説』牧眞司・大森望編/本の雑誌社※
  『真夏の異邦人 超常現象研究会のフィールドワーク 』喜多喜久/集英社文庫
  『深泥丘奇談・続』綾辻行人/角川文庫
10月『辞めない理由』碧野圭/実業之日本社文庫
  『楽園追放 rewired サイバーパンクSF傑作選』虚淵玄・大森望編/ハヤカワ文庫SF※
  『バベル NOVA+ 書き下ろし日本SFコレクション』大森望編/河出文庫※
11月『PK』伊坂幸太郎/講談社文庫
  『人間以前』フィリップ・K・ディック(大森望編)/ハヤカワ文庫SF※
12月『vN』マデリン・アシュビー(大森望訳)/早川書房※

「ひとこと」
 24冊のうち、自分の編訳書に書いたあとがき(または序文)が12冊(末尾に※を付した)。さらに、個人出版アンソロジー『夏色の想像力』に寄稿した序文とハードカバー本『契約』の解説を除くと、純粋な文庫解説は10冊だけ。「目黒考ニの何もない日々」を遡ってチェックしてみると、過去5年間(2009年以降)は、12冊→13冊→14冊→13冊→15冊と推移しているので、ここ数年では最小かも。仕事が減る予兆?
『契約』は、鈴木いづみのSF短編すべてを収める一巻本の全集で、収録全短編の解題含め40枚ぐらい書きました。
〔杉江松恋〕 1月『これ誘拐だよね?』カール・ハイアセン/田村義進・訳(文春文庫) 3月『ハロワ!』久保寺健彦(集英社文庫) 4月『ミステリマガジン700【海外篇】』※アンソロジー(ハヤカワ・ミステリ文庫) 8月『ザ・バット 神話の殺人』ジョー・ネスボ/戸田裕之・訳(集英社文庫) 9月『殉狂者(『エウスカディ』解題)』馳星周(角川文庫) 10月『「禍いの荷を負う者」亭の殺人』マーサ・グライムズ/山本俊子・訳(文春文庫)   『霊の棲む島』カミラ・レックバリ/高山クラーソン陽子・訳(集英社文庫)   『殺し屋ケラーの帰郷』ローレンス・ブロック/田口俊樹・訳(二見文庫) 11月『ミスター・グッド・ドクターを探して』東山彰良(幻冬舎文庫)   『傷だらけの拳 道場2』永瀬隼介(角川文庫) 12月『新魔獣狩り完結篇 倭王の城』夢枕獏(祥伝社文庫)   『死者に送る入院案内』赤川次郎(実業之日本社文庫)   『BIBLIO MYSTERIES』(単行本)※アンソロジー(ディスカヴァー・トゥエンティワン) 「ひとこと」 1~3月はアンソロジーの準備、4~6月はノヴェライズの仕込みをしていたので全然解説仕事をしておらず、今年はヒトケタかと思っていたのだが、蓋を開けたら13本で昨年の12本よりも多かった。昨年は日本ものと海外ものが8:4、今年は6:7と完全に逆転していて、最近の仕事傾向を正しく反映している。今年いちばんたいへんだった解説は『殺し屋ケラーの帰郷』で、シリーズ中で主人公が訪れた都市の一覧をつけた。読者には気に入ってもらえたのではないかと思う。また、赤川次郎作品の解説では、年度ごとの著作数の変遷と単発短篇の傾向には関連性があるかという分析をしている。こういう手数のかかる仕事、資料性の高い内容を自分は文庫解説には求めるので、ますます量産が効かなくなるのである。「すごいなー」もいいのだけど、「役にたったー」と言われたときの方が解説書きは嬉しいっすね。
〔池上冬樹〕 1月 『幼年』/福永武彦/講談社文芸文庫 2月 『棟居刑事 代行人(ジ・エージェント)』/森村誠一/中公文庫 4月 『真夜中の相棒』/テリー・ホワイト/文春文庫 4月 『野沢尚のミステリードラマは眠らない』/野沢尚/実業之日本社文庫 4月 『社奴』/森村誠一/集英社文庫 5月 『星月夜』/伊集院静/文春文庫 5月 『スパム・リコール』/司城志朗/小学館文庫 5月 『ウィスキー・ボーイ』/吉村喜彦/PHP文芸文庫 6月 『硝子の葦』/桜木紫乃/新潮文庫 6月 『ヒート』/堂場瞬一/実業之日本社文庫 7月 『ミッドウェイ』/森村誠一/講談社文庫 10月 『堕落男(だらくもの)』/草凪優/実業之日本社文庫 10月 『先導者』/小杉英了/角川ホラー文庫 11月 『花晒し』/北重人/文春文庫 12月 『ファミリーレストラン』/東山彰良/実業之日本社文庫 「ひとこと」  高校時代に出会って、以後何回も読み返している『幼年』の文庫解説依頼が来るとは思わなかったし、もう僕もこれで終りなの? と一瞬円が閉じられる想像をしてしまった。それほど僕にとって福永武彦の存在は大きい。  でも、考えてみたら、高校時代に好きだった福永の師匠の石川淳も、石川を尊敬してやまない丸谷才一、吉行淳之介、開高健、辻邦生、立原正秋、小川国夫、結城昌治、ロス・マクドナルド、そして最愛の森内俊雄の解説もしていないのだ、まだ。  解説依頼を待つのではなく、自分からアンソロジーの提案をして、好きな作家たちを集めた全5巻ぐらいの解説をすべきなのかもしれない。実はすでにいくつか話はきているのだが、忙しくて、なかなか着手できないのが現状。今年は無理矢理時間を作って何とかします。
〔北上次郎〕 2月『作家の履歴書』角川書店 4月『魔獣狩り①淫編』新潮文庫 5月『セブンティーン・ガールズ』北上次郎編(角川文庫)※ 7月『シフト』ヒュー・ハウイー(雨海弘美訳)角川文庫 8月『ライトニング』クーンツ(野村芳夫訳)文春文庫   『されど愚か者は行く-道場1』永瀬隼介(角川文庫)  9月『スリーピング・ブッダ』早見和真(角川文庫)   『容疑者』ロバート・クレイス(高橋恭美子訳)創元推理文庫 10月『満つる月の如し』澤田瞳子(徳間文庫)   『ウィンブルドン』ラッセル・ブラッドン(池央耿訳)創元推理文庫 11月『そして山々はこだました』カーレド・ホッセイニ(佐々田雅子訳)早川書房 12月『隠れ蓑 北町奉行所朽木組』野口卓(新潮文庫) 「ひとこと」 上記の12点のうち、※は編者解説。『作家の履歴書』と『そして山々はこだました』は単行本なので、純粋な文庫解説は9点。大森望にならって過去5年の推移を書いておくと、単行本、新書、編者解説などを除く純粋な文庫解説は、14→17→10→11→14、なので、近年の最小である。もっとも6年前の2008年も9点であったから、6年前の点数に戻っただけか。それにしても2010年の17点はよく書けたよな。とても自分のこととは思えない。今年の目標はせめて10本は書くこと。
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