第12回
ヌードではないが、水着の撮影なら2本同行した。
一本は、「School Sisters」という女子高生企画(3人の女子高生が編集したページとなっているが、実際はK先輩の担当ページ)の内の"制服と水着"コーナーの撮影だ。モデルは、プロダクションにお任せ(つまり、宣材を見て選ばない)で、5人程度、会社のスタジオに来てもらって、水着も制服も基本的には自前(モデルの持ち込み)で、撮影するというお手軽なもの。スタジオを間仕切り、即席の控え室兼ドレッシングルームを作って、準備ができた順に、制服→水着の順で撮影していく。
制服の写真が一通り終了し、水着に着替えてもらうよう、控室に全員が入ってから、少ししてKカメラマンが妙な行動をし始めた。撮影中は邪魔なので間仕切りのそばに撮影道具置き場として置いてある長テーブルの上に登り、必死な様子で間仕切りの隙間をこじ開けようとしているのだ。
「何してるんですか? Kさん」
尋ねると、Kカメラマンはいささかあわてた様子で口に指を当て、ささやき声で、
「シーッ。前から思ってたんだけど、この隙間から中が見えないかな~と思ってね。いつもは編集長が見てるから出来なかったけど、今日はキミだから」
Kカメラマンとは、この時ちゃんとした挨拶も交わしていなかったので、社員だとは思われず、バイトかなんかだろうと思われていたようだ。
(この業界の仕事してたら、女の裸なんて見放題だろうに、よくやるよ)
と思ったが、新米がそんなことを言えるわけもなく、
「で、見えたんですか?」
オレが、ちょっと興味ありそうな振りを装いながら聞くと、
「やっぱり、無理みたい。できたばっかのビルだもんね。しっかり作ってあるわ」
相当期待していたのか、ガッカリした様子でKカメラマンはあきらめたようだった。
もう一本は、カメラテクニック企画の「カメラレクチャー」。この撮影こそが、オレにとって初の本格的な撮影だった。3月末のまだ寒い朝の8時半、原宿に集合。車に乗って、神奈川県三浦市にあるプチホテル・サーフサイドビレッジが、撮影場所だ。このホテル、砂浜の目の前にあるうえ、自前のプールもある。ウッドデッキ付の洋風のレストランも付属していて、かなりシャレている。狙っている女のコをここに誘い出せれば、100%落とせるに違いないって雰囲気。
知っている人でないと絶対分からないような小道に入って、1キロ近くいくと、突然のように現れた瀟洒な建物に驚いていると、
「学生時代とかに遊んでいると、こういう場所をいくつも知っているんだろうけど、僕はあんまり遊ばなかったから、あんまり知らないんだよね」
K先輩が言う。
「ボクも遊んでなかったので、こんなところは一つも知りませんよ」
類は友を呼ぶで遊んでいた友人もいないオレは、こういうロケ地を探してこいと言われたらどうしようと不安になった。
アシスタントこそいなかったが、編集が二人同行していたため、撮影機材を運んだりの力仕事は思っていたほど大変ではなかった。
「今の笑顔、可愛かったよ」(とにかく、笑ってくれればいいんだよ)
「元気出していこう!!」(他のみんなは、長袖のジャケット着て、キミだけ水着だけど)
「うわぁー、その水着似合ってるねぇ」(着替えるたびに言うなって)
「寒いけど、ガンバって」(多分、10度台だぜ、今の気温)
「いいよ! いいよ!」(なにがじゃ!?)
レフ板を当てながら、肩に毛布を引っ掛け、レンズ交換やフィルムチェンジの間、モデルのコの毛布を掛けてやる。そして、ひたすらモデルを褒め、煽て、励まし、やる気を持続させるのがオレの仕事だった。正直、女のコを褒めるということをあまりやったことがないので、ほとんど応援団みたいなノリで、思いつくままに話しかけていたのが、真実だ。幸い、寒かったが天候にも恵まれ、初の本格的ロケは無事終了した。