第21回

 8月号が校了して、9月号の編集会議。
 
 例の出頭事件のエクスキューズで、7月号から急遽打切りになった「熱血アドベンチャーSCOOP決定戦」の代わりとして、1Cページの人気コーナー「お便り宅急ペン」の名人賞(写真投稿コーナーの傑作に与えられる賞、賞金のほかにカメラを咥えた金魚(「投稿写真」のシンボルマーク)のイラスト入りのバッジが与えられる)コーナーとして、4Cページに写真(ご丁寧にも「●写真は編集部で撮影したものです。」との注釈付き(笑))入りの「お便り宅急ペン エキサイティングスペシャル」を開始。 
 また、「Super Column」を止めて「お坊ちゃま相談室」に代えることになった。この相談室を始めるきっかけとなったのは、森伸之さんと弓立社が創刊した「制服図鑑通信」だった。

「やっと、出来ました」
 森さんから手渡された「制服図鑑通信」を編集部に戻り、編集長に見せた。
「こういう相談コーナーをやりたいんだよ」
 開かれたページを覗くと"近代女子学生のためのポスト純潔教育講座 道徳への旅"というタイトルが目に飛び込んできた。今は無き「女学生の友」にでも載っていそうなアナクロチックな(もちろんソコがキモなのだが)相談コーナーだった。ライター名を見ると"上原善二"の名。
「書いてるのは「本の雑誌」の先輩ですよ。同じライターでよければすぐにでも連絡しますけど...」
 
 そんな簡単なやり取りで決まった企画だった。だが、ライターは決まったもののイラストレーターをどうするかが、オレにとっては大問題。企画を一から起こすのはもちろん初めて(まだ入社3か月未満)で、担当しているページで描いてもらっているイラストレーターでは、企画の雰囲気にマッチしないし、他に個人的に知っているのは、沢野画伯と福井若恵さんくらいだがやはり合わない(頼んだところで受けてくれるかどうかも分からないが)。脳味噌をフル回転させて"アナクロチックでいて写実的なイラストレーター"を検索すると「丸尾末広」という名が浮かんだ。「ガロ」を中心に描いているマンガ家だが、その頃は小説の『帝都物語』のイラストの仕事もしていた。まさにうってつけだ!! ただ、ウチの会社とは縁がなく、社内の誰も連絡先を知らない(聞いて回ったわけではないが)。今でもそうだが、マンガの編集部(出版社)にとって、マンガ家の連絡先はトップシークレットなのが常識(もっとも、最近はマンガ家個人がブログやHPを作っていたりするので、そこから直接連絡を取ることは可能)、丸尾さんが描いている雑誌に電話したところで普通なら教えてもらえるはずがない。しかし、困ったオレはダメモトでガロ編集部に直接電話を掛けた。

「はい、青林堂です」
 年配の男の声。お目にかかったことはないが、おそらく編集長の長井勝一さんだったと思う。要件を簡単に説明して、丸尾さんの連絡先を教えてくれないかとお願いすると、
「ちょっと待って下さいね。ええと...」
 こちらの不安をよそにあまりにあっけなく教えていただいた。こうして「お坊ちゃま相談室」はなんとか出航に漕ぎつけた。そして、オレの担当コーナーも2つ増えることになった。