第36回
11月号の「アイシミュ」には、島田奈美('71年2月1日生まれ、東京都出身)が登場している。西村知美、杉浦幸と共に"桃組三人娘"と呼ばれ、「MOMOCO CLUB」が生んだ売れッコの一人だ。天然ボケの西村知美、ツッパリ風の杉浦幸の間に挟まれて、オレ的にはいまいちキャラのはっきりしない存在だと思っていたのだが、その物静かで可憐な雰囲気が逆にウケたのか、「投稿写真」のライターやイラストレーターにも熱狂的なファンがいるほど、アイドルとしての人気は高かった。'90年にアイドルを引退して、本名の島田奈央子名義で音楽ライター・ラジオパーソナリティーに転身するのだが、未だにチェックを入れているファンもいるに違いない。
オレはそんな読者受けするアイドルが紙面に登場してくれることを素直に喜んでいた。ところが、島田奈美の事務所はなかなか手強いところだったのだ。大手の事務所から独立した社長が経営する事務所で、島田奈美の担当は社長自身。中堅以下の事務所の場合、アイドル担当のマネージャーというと20代後半から30代半ばの若手が多く、割と気さくに話をすることができたのだが、二回り以上は歳の離れているとなるとそうもいかない。まして、大手事務所に所属していたとなると一度や二度は大物タレントの担当についた経験もあり、TV局を肩で風切って歩いていたこともあるのだろう、とにかく強気なのだ。電話での撮影衣装の打ち合わせはこんな感じだった。
「衣装なんですが、水着とかってどうでしょうかねぇ?(これを訊かないと編集長に怒られる(笑))」
「何言ってるんですか、そんなのできませんよ」
「それじゃあ。レオタードとか...(これも訊かないと編集長激怒)」
「そんなこというのなら、出るの辞めますよ!!(怒)」
「タンクトップに短パンとかのスポーティな格好ではいかがですか?」
「もういい!! 辞める」
「(あせって)ちちちちょっと待って下さい。一応訊いてみただけですから。失礼しました(なんで謝らなきゃいけないやら)。それじゃあ、私服ということで」
「じゃ、ウチの方で用意させてもらうから」
「そうですか、お手数掛けてすいませんが、よろしくお願いします(ホッ)」
実際に現場で会った社長は、神経質そうな感じは電話でイメージした通りだったが、物腰は基本的に柔らかい人だった。電話で怒られたオレは、いつ逆鱗に触れやしないかと冷や冷やしていたのだが、撮影・取材といつものように平穏に流れて行った。