第38回

 この号の「アイシミュ」はヤバかった。中森さんの書き出しからしてこうだ。

「大変だァ! 大変だァ! 大変でござる! 『投稿写真』ヘンシュー部の好青年・大橋クン、先立つ不幸をお許しくだされ...なんちゃって、一人時代劇してるヒマはないが、なんのこっちゃない、この、たった今書いている原稿がかなりアブナイ状態なんだよね」(原文ママ)

"好青年"とは持ち上げてくれたものだが(笑)、そんなおべっかを中森さんが書くくらいの瀬戸際だった。いつもはギリギリながらなんとか間に合っていた中森さんの原稿が、遅れに遅れ、通常の締め切りはもとより、版下入稿締め切りを過ぎても上がってこない。仕方なく、20字詰め120行(この字数は毎回決まっていた)で先割りのレイアウトを進め、本文を空白にした版下を入稿。色校もそのまま進め、再校が上がってくる前の日に原稿を受け取り、写植屋に頼み込んで最後のゲラが上がる前に何とか間に合わせてもらった。そのため、タイトルが「おキャンギャル 吉村奈見子を徹底シミュレート」と原稿がどんな内容でもマッチするような中庸さだし、写真につけるキャプションも原稿とは全く連動していない(引用した書き出し部分の"不孝"が"不幸"になっているのも直しがきかないギリギリ入稿故の誤植だ...多分)。ここまで追い詰められたのも、これだけの大技を使って間に合わせたのも初めての経験(最初にして最後)だったが、ある意味、本当はどこまで間に合うかが判って、勉強になったのも事実だ。

 タイトルに書いてある通り、「アイシミュ」に登場してくれたのは、吉村奈見子('71年10月13日生まれ、東京出身)だ。中学3年生の15歳にしては、ハタチ過ぎの女子大生といっても通用するほどの大人びた風貌のコだった。中山美穂を生み出したTBSの人気シリーズ「毎度おさわがせします」(男のコ達の初体験をコミカルに描いたドラマ)のパート3に出演が決まっていると聞いて、(正にうってつけだ)と納得してしまった。

 

「FIインタビュー」に登場するのは、その吉村美奈子が出演していた同じくTBSのドラマ「夏・体験物語」(「毎度~」とは逆に女のコの初体験をコミカルに描いたドラマ)パート2の主役を演じていた(「毎度~」パート2にも出演)藤井一子('70年6月23日生まれ、福岡出身)。ドラマの役柄通りのちょっとツッパったイメージを持って取材に臨んだのだが、実際の藤井一子はハキハキしているしっかりしたコで、同時に女のコらしい可愛らしさもあって、"ポスト中山美穂"といわれているのもうなずける素材だと感じた。

 撮影の時にスタジオの外階段を使って撮ろうということになり、非常口のドアを開けると外は一面の墓(隣がお寺だったのだ)。ポラ撮りの上がりをチェックしていたNカメラマンが、深刻そうにつぶやく。

「こりゃあ、ヤバいな」

「どうしたんです」

 Nカメラマンが真剣な顔で見つめているポラを覗きこむとそのうちの一枚の背景に雲のようなモヤモヤしたものが写っている。すぐに単なる現像ムラだと気づいたのだが、そこはNカメラマンに合わせ、

「うわぁ! これはヤバいかも」

 大げさに声を上げた。

「やっぱり、墓場のそばだから...」

「わからないけど、こんなの写ったの初めてだよ」

「オレも初めてですよ」

 こちらの悪ふざけが気になったと見えて、

「どうしたんですか?」

 藤井一子もエセ心霊写真品評会の輪に加わる。「ほら、これ」と現像ムラの入ったポラを見せた。

「なんなんですか、これ。おウチまで憑いてきちゃったらどうしよう。あ~ん(泣)、今夜眠れなくなっちゃう」

 不安そうな藤井一子の反応に、Nカメラマンとしてやったりの笑顔をこっそりと交わした。それに気づいてかどうか、ポラを見つめていた顔を上げ、オレの方に向き直るとすかさず、こう言い放った。

「一人じゃ寝れないから、一緒に寝てくれます?」

「嫌じゃなければ」

 予想しなかったレスポンスに不覚にも一瞬、ドキッとしてしまったオレは、そう答えるのが精いっぱいで、気の利いた台詞が返せなかった。そして(16歳とはいえ、初体験ドラマの主演を張るだけのことはあるな)とすっかり感服させられてしまった。

 藤井一子は、歌の方もなかなかの歌唱力で、ビッグになることを期待せずにはいられない素材だと思っていたのだが、"実力だけでは渡っていけないのが芸能界"の例えではないが、結局スターダムには手が届かなかったのは残念でならない。