第47回

 ランチサービスの時に一度起きて(というよりスチュワーデスに起こされたのだが)食事をし、再度寝て、ランディングの衝撃と音で目を覚ますと飛行機はグアムに着いていた。現地気温は33度とアナウンスが流れる。機内はエアコンが効いていたが、だんだんと気温と湿度が上昇してゆく。オレは、汗だくになる前に日本から着てきた長袖シャツを脱いで、Tシャツ姿になった(もちろん、最初から着ておいた)。

 荷物を担いでタラップを降りると、南国独特の甘酸っぱいような匂いと湿気を帯びた生ぬるい空気がまとわりついてくる。匂いこそ少し違うが、リオ・デ・ジャネイロの空港に初めて降りた時と雰囲気が似ていて、懐かしい感じがした。

 

 ツアーに乗っかる形でチケットが手配されていたので、他のツアー客と一緒に空港から寄宿先となるホテルオークラまでマイクロバスで運ばれた。ホテルオークラはタモン湾に面して並ぶホテル街の一番端(今はその先にホテルニッコーグアムがある)にあって、他の乗客は途中のホテルで降りてしまい、オークラでまで行くのはオレ達のロケチームだけだった。

 ホテルでは、日本人のツアーデスクが出迎えてくれ、ホテルのチェックイン、レンタカーの借り出し、ツアーに付いている現地観光ツアーのキャンセルの手続き等を済ませると午後4時近くになっていた。とはいえ、南国の陽はまだ高い。

「洋服のカットだけでも撮っときます?」

 帰国は12月11日朝、つまり10日の深夜の便で帰るので、実質、中2日しかない。海外ロケの場合、天気が悪い場合を想定して一日くらい予備日を取っておくのだが、今回は黒木のグラビアを2月号に間に合わせるため、ギリギリの日程になってしまったのだ。撮れる時間があるのなら一分でも無駄にはしたくない。そんな気持ちでFカメラマンに訊いた。ロケチームを率いるのは、編集であるオレだが、主導権はカメラマンにある。

「そうだな~。でも、まだ着いたばかりだし、メイクしてたら陽が落ちちゃうだろ。俺達も荷解きしないとならないし」

 それじゃあとKとモデル二人には、シャワーで汗でも流してから夕食まで部屋で待機するように告げた。

「日本と違って治安がいいとはいえないから、絶対に一人ではホテルから出ないこと。買い物とかしたいんだったら、言ってくれれば夜、連れてってあげるから」

 マネージャーが同行していない以上、万が一があってはこちらが困る。まして、オレ自身が初めての場所なのだ。当然といえば当然の処置だが、折角グアムに来たのに自由に見て回れないのはちょっとかわいそうな気もした。

 

 部屋割は、ツインルームにエキストラベットを入れて3人泊まれるようにして、Kとモデル達、隣の部屋は、Fさんとオレだ。3人が部屋に入るのを見届けて、撮影機材と私物を含めて5,6個の荷物を部屋に運び入れる。まずは、部屋の冷蔵庫の中のものをすべて出して、代わりに撮影用フィルムの入った箱を詰め込む。撮影用のリバーサルフィルムは、あまり温度か高いと変質してしまうことがあるので、大事な作業だ。冷えすぎても感度に影響するのだが、朝食前に冷蔵庫から出しておけば、撮影が始まる頃には常温に戻っているので問題ない。オレがその作業をしている横で、Fさんはカメラの点検していた。

「天気どうかな」

「乾期に入ってますから、問題ないと思いますよ。今日もいい天気みたいだし」

 やれエルニーニョだ、ラニーニャだと地球が異常気象になる前だけに、冬場に台風が発生するようなこともなく、世界中の気候はガイドブックに書かれている通りに移り変わっていた。

「一息ついたら、飲み物を買いに行こう。ジャパニーズフードマーケットが近くにあるから」

 宿が決まれば、水の確保は、海外ロケならずとも海外旅行の常識。Fさんの現地情報収集はぬかりなさそうだ。