第48回

 Fさん推薦のスーパーは、ホテルから車で5分ほどのところにあった。部屋置き用の大きなペットボトルのミネラルウォーターを4本、缶ジュースを適当に選んで10数本、ショッピングカートに投げ込む。当時の日本の缶ジュースは、プルトップを切り離す式のものだったが、そこで売られているのは、現在の日本と同じ押し込み式かアルミ箔のシールをはがす式のものだった。

とりあえずの買い物はこれで終わりだが、他にどんなものが売られているのか店内を物色してみる。ジャパニーズフードと銘打つだけあって豆腐や油揚なども並んでいる。ただ、どれもくたびれた感じで鮮度に問題がありそうだ。野菜も日本と同じものはあるが、キューリは直径5センチ長さ30センチ、ピーマンはソフトボール大のビックサイズ、逆に大根は、ニンジンかと思うほどの大きさ。味の方も、おそらくは日本のものとは違っていそうだった。面白かったのは、"SUKIYAKI"とラベルに書かれた缶詰があって、(なんだこりゃ?)と手に取って、裏側の内容表示を読んでみると「豆腐・白滝・ニンジン・マッシュルーム(しいたけと思われる)etc.」と書いてある。牛肉は入っていないようなので、牛肉以外のすき焼きの材料が入っているらしい。確かに海外ですき焼きをやるとなったら、焼き豆腐や白滝の入手に困りそうだ。

(しかし、これを買ってすき焼きを楽しもうと思う人がこの島にどれだけいるのだろう? いやいや、その前に「すき焼き」と書いてあるのに肉入りではないのは不当表示じゃないのか?)

いらぬ心配をしながら勘定を済ませ、大きな紙袋をカートで車に運び込む。ついでに買ったばかりの炭酸のグレープ飲料を取り出した。普段なら甘い飲み物は口にしないのだが、烏龍茶缶も無糖ブラック缶コーヒーもスーパーには置かれていなかった。これはガキの頃よく飲んでいたのと日本でもなじみの深い大手メーカーの飲み物なら無難だろうとの選択だった。プルトップを押し込み、グッと流し込む。

(ゲッ!!)

安っぽいブドウ味のドロップを水に溶いて炭酸を加えたような味と香りが口中に広がる。昔飲んだ味とは似ても似つかない。吐き出したい気持ちをこらえながら、無理やり喉に通す。

(なんじゃ、こりゃ!?)

 試しにコーラも開けて、飲んでみる。日本のものと変わらない。

「母上、これはジュースではござらぬ」

 ポンジュース(だっと思う)のCFのセリフが頭をよぎった。世界の常識は、果汁100%のものだけが"ジュース"、それ以外は"エード"。日本では"エード"が独自の進化を遂げ、"ジュース"に負けず劣らずの味を作り上げられたのだが、欧米ではそうではなかったのだ。"エード"はあくまでも"エード"であって、"ジュース"ではない。欧米では"エード"はジャンクフードだから、味の方もそれなり、しかし"ジュース"に対抗できる"エード"のある日本では、それに合わせた独自の味に作り上げられていたようだ。

 この時買った"エード"はどの味もみんな同じレベルだった。そして、思わぬカルチャーショックに見舞われたオレは、心の中の海外ロケの掟ノートに「絶対に"エード"は買わない」と書き記した。