第50回
もう一つのお楽しみ、それは拳銃を撃つことだった。日本では、警察官か自衛官にでもならない限り合法的に撃つことはできないが、グアムのガイドブックにはその手の店の広告で溢れていた(最近のガイドブックには自粛しているのか、その手の情報は全く載っていない。もっとも、ネットで検索すればいくらでも出てくるが)。広告だけでは、店の良し悪しは分からないが、グアムは観光地であるとともに米軍基地のある島、期待はできる。
「俺も撃ったことないからさ。Kとかモデルには秘密にして、二人で行こうよ。どうせ誘ったって、興味ないだろうし」
出発前の打ち合わせの時にFさんと内緒の合意が成立していた。
「夜は3日ありますけど、2日目と3日目は、多分みやげ物買いに連れてかなきゃならないでしょうから、行くとしたら初日の夜ですね。夕食が済んだら、K達は部屋に押し込めておいて行きましょう」
夜の水着ショーならぬ、衣装会わせは予定外だったが、時刻は9時ちょい過ぎ。
「まだ、やってますかね?」
「ま、とにかく行ってみようや」
オレ達は、音を立てないように気をつけながらこっそり部屋を抜け出し、車に乗り込んだ。射撃場は、ホテルから夕方行ったスーパーの間にあるのを確認済みだ。
街灯の少ない暗い道を車で走ってゆくとライトアップされた射撃場の看板が見えてきた。その奥にある建物にも明かりが灯っている。まだ、やっているようだ。
店の前の駐車スペースに車を止めて、店内に入る。店内は静かでほかに客のいる様子はない。日本人の客は少ないのか、日本語表示の案内や料金表はなかった。
「エクスキューズ・ミー」
大声で叫ぶとカウンター横のドアから太った店員が出てきた。こちらが日本人と見て、英語が通じないと悟ったのか、もともと無愛想なのか、黙って料金表を差し出す。受け取って眺めると、いろいろなコースが日本語で書かれている。拳銃の種類によって料金が別れていて$30~40、当時のレートで5~6千円だ。
「Fさん、これにしましょうよ。どうせ初めてなんだから、いろんな種類を撃ってみるのがいいと思いますよ」
オレは、"ミックス"と書かれたコースを指さした。22口径、22マグナム、38口径、38マグナム、45口径の6種類の銃弾を6発ずつ撃てて、$35だった。
「そうだな」
Fさんの同意を得て、店員に身振り手振りを加えつつ伝えて料金を支払うとさっき彼が出てきたドアの方に案内された。ドアの奥は、さらにドアが並んでいてそれぞれ仕切られ、定員5人の射撃場になっていた。ヘッドフォンのような形のイヤープロテクターとゴーグルを渡される。それを着けると次にリボルバー拳銃が手渡された。結構小さい、どうやら22口径のようだ。
「大橋、これどうやって撃つんだ?」
いざ、シューティング・レンジに入ろうとしたところで、Fさんが困った顔をしている。
(オレだって初めてなんですけど...)
「リボルバーですから、強く引き金を引けばそのまま撃てますけど、普通は撃鉄を押し下げて...」
オレは戸惑いつつも、映画や小説などで覚えた(つもりの)一度も撃った事のない拳銃の撃ち方を速攻レクチャーした。
「...後は、間違っても銃口を標的以外の所に向けちゃダメですよ」
「まあ、大体分かった」
Fさんへの講義が終わり、割り当てられたレンジに入る。標的をワイヤーに吊るされたクリップに挟み、ボタンを押すとケーブルカーよろしく標的は10メートルほど奥の方まで進んでゆく。さっきFさんに教えた通りの手順で射撃の体勢を整える。引き金に掛けた人差し指にゆっくりと力を込めて行く。