第52回

 朝6時、頼んでおいたモーニングコールで目を覚ます。緊張のせいか、日本時間にしたら午前5時の早起きなのに眠気は感じなかった。カーテンを開けると南国の強烈な陽光が差し込んでくる。天気は問題なさそうだ。
 Fさんも起きたので、身支度を整え、すぐ撮影に出られるように準備を始める。といっても、編集として持って行く荷物はスポーツバッグにまとめてあるので、今日使う分のフィルムを冷蔵庫から出して終わりだ。クーラーボックスに飲み物と氷を入れておく準備は朝食の後でいい。準備はすぐ終わってしまい、手持無沙汰なので早めにラウンジで朝食を取りながら、K達を待とうということになった。
 朝食のメニューは、パンかライスと卵(目玉焼きかゆで卵かスクランブルエッグ)を主体としたセットになっていて、付け合わせをハム、ソーセージ、ベーコン、ミニッツ・ステーキ(朝からステーキって!?)から選び、スープ、コーヒーやジュースなどの飲み物はフリーになっていた。
 その頃のオレは朝食を取る習慣がなかったので軽く済ませ、お世辞にもおいしいとは言えないコーヒーを飲んでいた。程なく、K達も合流し、その日の撮影の打ち合わせをする。
「まずは、表紙を撮って、それから水着だな」
 Fさんの頭の中では、すでにスケジュールが決まっているようだ。もっとも、撮る場所が海外だからといって、日本で撮るのと撮影手順に変わりはない。
「じゃ、8時にエントランスに集合して出発ね」
 まだ、食後のコーヒーを飲んでいるK達に告げ、Fさんとオレは席をたった。

 午前中の撮影は、今は第二のホテル街となっているハガニア湾まで、足を伸ばした。タモン湾もそうだが、沖の方まで白い砂のリーフになっているので、海が明るい色と深い色のマリンブルーに別れていて、感動的に美しい。ビーチのそばには、南国独特のコンクリート平屋造りの住宅が並んでいる一角や公園もあって、どこで撮っても絵になりそうな雰囲気だった。
 公園のパーキングに車を止め、撮影開始。モデルが二人いるので、片方を取っている間、もう一方が準備をして、一段落したところで交替し、次の衣装とメイクをする。着替え待ち、メイク待ちのロスタイムがないため、撮影は快調だった。
 一度移動して、恋人岬下の観光スポットではないビーチでジャングルを背景にした水着ショットを押さえて昼食。陽がトップになっている2時半まで、ホテルに戻って休む(陽がトップだと鼻の下や首の下に濃い影ができるので、ポートレート撮影には向かないためで、別にサボっているわけではない)。
 後半戦は、タモン湾の中央にあるハイアットホテル前のビーチで撮り、陽が傾いてきたところで、オークラ前のビーチに移動する。夕方近くなっても、スコールの気配さえなく、移動のための中断以外は、撮影撮影また撮影だった。さめかけていた日焼けは、たった一日で夏場の色に戻っていた。

「撮りましたねえ。60本超えてますよ」
 一日目の撮影を終え、冷蔵庫に保管するためにフィルムの本数を数えると60本を超えていた。通常のロケで一日に撮る本数は40本前後。今日だけで、本数的にはほぼノルマに達している。
「明日も同じ天気か判らないし、撮れるうちに撮っとかないとな」
 Fさんは当然といった顔だ。
「今日のカットだけでも、5~6ページはもう十分組めますね」
「そうだな。でも、気が抜けると困るから、K達には言うなよ」
「もちろんですよ」
 考えてみれば、撮影できるのは明日一日だけだ。今日も晴れなら、明日も晴れとノー天気なオレと違って、神経質なFさんは、最悪の事態に備えていたのだった。
 そんなFさんの心配をよそに、次の日も撮影日和だった。撮ったフィルムは、100本を軽く超えてしまった。