第70回

 '87年12月号/表紙・北岡夢子/グラビア・守谷香・盛本真理子/アイシミュ・パンプキン/IDOL SCRAMBLE・白田あゆみ・守谷香・黒木永子

  12月号の製作の準備に入り、悦に入ったままのオレは意気揚揚とビッグEに連絡を取る。最初は水谷麻里でうまくいったものの、2回目以降は必ずしも先生のお好みのコが用意できるとは限らない。しかし、できるだけ希望に沿ったアイドルを用意しようと思っていた。

 ところが、なかなか連絡がつかない。

(他の締め切りに追われて、逃げてるのかも)

 まだ、時間的に余裕があったので、一日2~3回だけ電話を入れ、留守番電話に用件を吹き込んでいた。

 そうしている内に、そろそろキャスティングを決めないとマズい時期になってしまった。

 とにかく、連絡が取れないと始まらない。アセったオレは一時間おきに電話を入れた。そうしてから、3日後、やっとビッグEが電話に出てくれた。

「そろそろ次の対談相手を決めたいんですけど」

「それなんですけどね。時間が取れないんですよ」

 つぶやくような話声。声だけでも鬱が入っているのがわかる。

「連載ということでお願いしたんですから、なんとか時間を作ってもらえませんか?」

「う~ん、アメリカに旅行に行くことになってしまって、難しいんですよね。連載で承諾しましたけど、単発企画ってことにならないですか」

(そ、そ、そんな~!!)

 ず、ず~~~んと体中の血液が足元に下がっていくような気分が襲ってきた。話しながら、最悪でも隔月企画でと提案したのだがそれも難しそうだ。

「わかりました。編集長と相談してみます」

 色々と説得はしてみたのだが、とりつくシマもなしといったビッグEの反応に諦めを感じつつ、受話器を置いた。

 ほとんど独断で進めた企画だけにせめて2、3回続いてくれれば、体面は保てたのだが、連載と銘打っておきながら、一回でおしまい。悦に入っていた最高の気分は一気に反転して、暗~く最悪の気分に陥った。そして、それを編集長に報告しなければならない。殴られはしないだろうが、キツーく怒られることは間違いない。断頭台に上がる囚人のような気分で編集長のデスクに向かった。

「実は、ビッグEの企画なんですけど、ずっと連絡が取れなくて、さっきやっとつかまったのですが...」

 これまでの経緯と結果を編集長に伝えた。

「ま、しょうがないな」

(えっ!! それだけ...)

 こってりと絞られることを覚悟していたオレは、しょうがないの一言だけで済んでしまったことに拍子抜けしてしまった。

「一回で終わり、ハハハ、あのビッグEじゃ仕方ないよ」

 最上級にほめてくれた哲也さんも、たしなめるどころか慰めてくれる始末。どう考えても編集者の仕事としては大失敗なのに、周りの反応は、ミョーに暖かだった。どうやらビッグEが原稿を落とすことをパフォーマンスに仕立ててしまったS学館のおかげで、普通なら編集者の常識としてありえないことでも、ビッグEに関しては例外だとみんな思っていたようだ。その風説のおかげでオレの編集者人生最大の失敗は、笑って済まされてしまった。 

 3年後の'90年、ビッグEと水谷麻里の結婚が報じられたが、「投稿写真」誌上で二人が対談したことに関しては、ほとんど語られることはなかった(笑)。